研究実績の概要 |
平成30年度までにダイヤモンドアンビルセル(DAC)と反射赤外分光法を用いて高圧下での同位体トレーサー拡散実験法が確立できた。この方法により、まず、メタンハイドレート(MH)の籠を構成する水分子の水素の自己拡散係数を求めることにした。トレーサーとしてD2Oを用いて拡散対を作製し、II相が安定となる320 K, 1.2 GPaの温度圧力条件で拡散実験を行った。拡散対には不純物として高圧氷VI相も含まれており、拡散対内でMHに濃度分布があった。これは合成したMHに、メタンガスと未反応の水が含まれていたためである。これにより、拡散対内のMHの濃度が高い箇所と低い箇所の拡散係数を比較して、MHと高圧氷VI相の水素の拡散係数の大小関係が分かった。MHの拡散係数は9×10^(-15) m2/sで、一方の氷VI相の拡散係数は1×10^(-15) m2/sとなり、MHのほうが氷VI相に比べると水素の拡散が遅いことが分かった。これはMHのほうが水分子の水素結合が強いため、水分子が動きにくい状態であると考えられる。自己拡散係数と粘性を関係づける塑性流動則を考えるとMHのほうが氷に比べると粘性が高いことが示唆される。これは過去のMHと氷の塑性変形実験の結果(Durham et al. 2003)と矛盾しない。 タイタン内部のMH埋蔵量を推定するには、MH中のメタンの自己拡散係数を測定する必要がある。上述の方法によりメタンの拡散係数を測定するためには、トレーサーとして13CH4を使い、反射赤外分光法で13CH伸縮振動の赤外反射バンドを測定する必要がある。実際に赤外反射バンドが測定可能かを確認するために、重水素置換したMHを8 Kまで冷やし、赤外分光測定を行った。吸収スペクトル上でCH伸縮振動の赤外吸収バンドは強く現れるのに対して、反射スペクトル上で赤外反射バンドのほうは弱くて測定できなかった。この結果、赤外吸収分光法を用いて、DAC加圧軸の垂直方向に13CH4を拡散させる実験を行わなければいけないことが分かった。
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