本研究は、プラズマ乱流研究における従来の電子・イオン間スケール分離の仮定を覆すマルチスケール乱流の新しい理論的枠組みを開拓しようとするものである。平成31年度は、スラブ配位マルチスケール乱流シミュレーションに基づく数値解析の進展、および、射影演算子法を用いたマルチスケール相互作用の評価手法の確立が主な研究実績である。 第一に、昨年度作成した計算コストの小さいスラブ配位イオン・電子温度勾配モードのマルチスケール乱流シミュレーションコードを用いて、質量比が異なる電子・イオン種に対する解析を行った。質量比が離れるにしたがって、イオンおよび電子の微視的不安定性のスケールは大きく離れるため、スケール分離の仮定に近づくと考えられる。イオン・電子スケール比を20倍から160倍まで変化させるスキャンを実施したが、それだけスケールが離れても両スケールの間には相互作用が残ることが確認された。これは、微視的不安定性のスケール自体が離れても、乱流中でのエネルギーカスケードにより中間的なスケールの構造(サブイオンスケール構造)が形成され、それを介した相互作用が起こるためであると考えられる。 第二に、マルチスケール相互作用を抽出・モデル化するための方法論として、射影演算子法を用いた定式化およびデータ解析への実用を提案した。モデル化の進展として、有限記憶時間の効果を取り入れた非Markov型記憶項の数値計算手法を提案した。提案手法を蔵本-Sivashinsky乱流に適用し、射影演算子法により得られるデータ解析結果の物理的解釈を議論した。また、簡約モデル構築のデモンストレーションとして、短波長揺動の寄与を長波長揺動に記憶関数と無相関項として取り入れた数値計算を行い、直接数値計算の結果と同レベルの乱流揺動スペクトルを得ることを示した。加えて、解析のカットオフ波数に対する依存性を示し、理論との定性的な比較を行った。
|