研究課題/領域番号 |
17K14432
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
小板谷 貴典 東京大学, 大学院総合文化研究科, 助教 (60791754)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | パラジウム / メタン / 酸素 |
研究実績の概要 |
本研究では、パラジウム系合金モデル触媒を用いて、吸着誘起の表面構造変化および反応活性との相関を複数の実験手法で観測し、その反応機構の解明を目指している。 本年度は当初の計画通り、まずガス導入システムとサンプル加熱システムを作製した。その後、Ag(111)単結晶表面にパラジウムを蒸着しモデル触媒を形成し水素雰囲気下での表面構造観測を光電子顕微鏡(PEEM)により行った。しかしながら、水素雰囲気下での有意な構造変化は観測されなかった。そこで、水素雰囲気下の代わりに酸素雰囲気下で同様の表面構造観測を行ったところ、Pd-Ag合金表面の酸化に伴う酸化パラジウム薄膜の形成に起因するとみられる、マイクロメートルオーダーの表面構造変化が観測された。 PEEMによる表面構造観測と並行して、Pd表面におけるメタンの吸着とそれに対する表面吸着酸素の影響をX線吸収分光および赤外分光測定で調べた。清浄なPd表面では吸着メタン分子と表面間での化学的相互作用によりメタンC-H結合の活性化が起こることが初めて明らかとなった。一方、酸素が吸着して表面再構成を起こした表面の場合は、分子と表面間における相互作用が抑制され、C-H結合の活性化が起こらないことも明らかとなった。メタンをはじめとするアルカンの活性化には分子がどれだけ表面に近づけるかが一つの重要な要素であり、表面再構成に伴う表面構造の変化が分子-表面間の相互作用に影響を及ぼしていることが考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初は水素化反応を扱う予定であったが、水素によるモデル触媒表面の構造変化が観測されなかったため、酸素雰囲気下における酸化反応に系を変更した。その結果、Ag-Pd合金表面の酸化によるマイクロメートルスケールの構造変化がPEEMにより観測された。 また、Pd単結晶表面においては、表面とメタンとの相互作用が吸着酸素によって著しく影響を受けることが明らかとなった。この結果をもとに3月の日本物理学会で発表を行い、現在学術誌に論文を投稿すべく準備中である。いくつかの成果が上がっており、おおむね予定通りに研究が進んでいると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
Ag-Pd合金表面の酸化過程において表面構造変化が光電子顕微鏡により観測されている。今年度は走査トンネル顕微鏡を用いて原子レベルの空間分解能で表面構造の解明を目指すとともに、光電子分光で酸化した表面の化学状態を明らかにする。また、観測された動的な表面構造変化が触媒反応にどのような効果をもたらすのか、COやメタンの酸化反応を例として反応中の表面を光電子顕微鏡、光電子分光、赤外分光などを用いて観測し、反応メカニズム、特に表面の構造と反応性の間の相関を明らかにする。 Pd単結晶上のメタンの吸着に関する成果はなるべく速やかに学術誌への投稿を行う。また、メタンと表面との相互作用が表面の構造にどのくらい影響を受けるのかを明らかにするために、相互作用の面方位依存性(例えばPd(110)とPd(111)表面での差異)を調べる予定である。また、Pd単結晶表面を酸化してPdOを形成し、酸化物表面上でのメタンの相互作用と反応を調べる。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究を実施してゆく中で必要に応じて研究費を執行したが、当初の見込み額と執行額が若干異なった。しかしながら研究計画自体には大きな変更はなく、前年度の研究費も含め、今年度も当初の予定通り研究を進めていく。
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