本研究課題は、分子振動に関する量子固有状態についてreal spaceでの実験情報を取得する新規な方法論の開拓を目指している。2018年度も前年度に引き続き、そのための基盤的なデーターの取得に重点的に取り組んだ。解離極限近傍までの広いエネルギー領域で振動固有状態を観測し、解離や異性化等の分子ダイナミクスを定量的に評価する上で、弱い分子間相互作用で結合した分子クラスターは最適なベンチマークの1つである。本研究では、基本的な分子クラスターの一種であるベンゼン-水素クラスターを研究対象として、2波長レーザー分光と質量分析技術を組み合わせることにより、結合エネルギーを決定することに成功した。ベンゼン-水素間の分子間相互作用を理解することは、炭素マテリアルを用いた水素吸蔵技術の開発を進める上での基盤であり、これまで多くの量子化学的計算例が報告されている。今回の成果は、初めて実験的に結合エネルギーを特定したものであり、計算化学の信頼性を評価する上で重要なreferenceを提供するものである。また、ベンゼンに結合する水素分子の数に対して、結合エネルギーが系統的に変化していくことも実験的に明らかにすることができた。この変化は、クラスター内での水素分子の配置と対応しており、分子間相互作用を定量的に評価する上でも重要である。
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