本研究の目的は、大規模系の非共鳴ラマンスペクトルのシミュレーションを可能にすることである。このシミュレーションにはエネルギーの三次微分を計算する必要がある。従来の計算で用いてきた数値微分では、計算を容易に行うことができる代わりに数値的誤差を大きく含んでしまう問題がある。そこで、本研究ではエネルギーの三次微分を解析的に計算することで、数値的誤差の問題を解決する。また、大規模系の応用計算を行うことも目的としている。 本研究の目的自体は、初年度での研究でおおむね達成できたと言える。そこで昨年度は、さらに研究を進めるために長距離補正の密度汎関数強束縛法を用いた理論開発に着手したところであった。昨年度に行った、励起状態における構造最適化を可能にする理論開発を論文としてまとめて、誌上発表を行った。また、解析的二次・三次微分計算を可能にし、長距離補正を行った密度汎関数強束縛法でも、大規模な非共鳴ラマンスペクトルの計算を可能にした。これにより、通常の密度汎関数強束縛法では正確に記述できなかった系での改善が見込まれる。今後論文にまとめて発表することを検討している。 本研究で主に用いている密度汎関数強束縛法は半経験的な手法であるため、その精度に関しては注意深く検討していかなければならない。そこで、ベンチマーク計算として有用と考えられる、多参照摂動理論の実装も行った。解析的一次微分の実装を行い、誌上発表を行った。
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