研究課題/領域番号 |
17K14438
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
土持 崇嗣 神戸大学, システム情報学研究科, 講師 (40763933)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 量子化学 / 電子状態理論 / 理論化学計算 / 多配置波動関数理論 / スピン射影 / 多核金属錯体 |
研究実績の概要 |
結合解離・反応遷移状態・遷移金属を含む化合物などにおける多配置の電子状態は、通常のHartree-Fockに根ざした電子相関手法では取扱いが困難である。この ような多配置性を低い計算コストで実現する波動関数理論として電子スピン反転法(SF法)やスピン対称性の破れを利用するUHF法があるが、これらの波動関数 は正しいスピン状態を保持しない。そこで本研究の目的は、スピン射影を組み合わせることで汎用的な手法として開発しこれを広く適用することにある。 平成30年度は、スピン反転一電子励起による配置間相互作用(SF-CIS)にスピン射影を行うSF-ECIS及び通常のECISについて、これらに用いられる分子軌道とCI係数を効率的に同時に最適化するため、二階微分行列を導出、実装した。これにより基底状態のエネルギーは大きく改善されたが、本手法では基底状態に強くバイアスがかかった最適化になるため、励起エネルギーが大幅に過大評価されることが確認された。そこで基底状態と価電子励起状態に重みを付けて状態平均を取りつつ同時最適化を行うことで、励起エネルギーを大きく改善されることに成功した。またこれにより、円錐交差を予測できることを示した。 また、動的電子相関を記述するため、SUHFを出発点とした摂動論をいくつか開発した。また、前年度開発したECCSDにおいて、高度化の進捗があった。ECCSDでは過完備の非線形方程式と解くため、方程式を満たす解が無限に存在する。物理的意味を持つ解を得るために大規模固有値問題を解かなければならないが、これを避けるために反復的にヌル空間を取り除く手法を開発し、ECCSDの適用範囲が大きく広がった。遷移金属錯体[Fe2S2(SCH3)4]2-に適用し、スピン状態のエネルギー分裂を高精度に理論予測することに成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
いずれの手法においても実用可能な状態まで実装が完了しているが、ECISからの摂動論や乱雑位相近似は未実装である。 応用計算においては多核マンガンクラスターの解析には到達していないものの、Hartree-Fock法から出発する一般的な手法では計算が破綻するマンガン分子(Mn2)や、より複雑な遷移金属錯体([Fe2S2(SCH3)4]2-)について高精度に計算を行うことができており、全体としてはおおむね順調に進展していると考える。
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今後の研究の推進方策 |
CI係数と軌道最適化を同時に行うSF-ECISやECISでは、基底状態と励起状態を同じ重みで求めることにより円錐交差を記述できることが確認できたため、最終年度は摂動効果を入れたより高精度な計算手法の確認、またこれを用いた応用計算を行う予定である。SUHFからの摂動論は発散してしまうものも見受けられた上、円錐交差など複数状態間の計算では各状態の摂動後に対角化問題に帰着する必要があると考えられる。今後はこれらについても研究を進める。
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