研究課題/領域番号 |
17K14440
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
辻 雄太 九州大学, 先導物質化学研究所, 助教 (80727074)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 量子干渉 / コンダクタンス / 交互炭化水素 / 分子伝導 / 単分子接合 / グリーン関数 |
研究実績の概要 |
単一の分子が電極間に挟まれたナノ構造体(単分子接合)はナノスケールにおける電荷輸送の基礎的なメカニズムを研究するための興味深い対象となるだけでなく将来的なナノエレクトロニクスデバイス開発の重要な足掛かりとなる。本研究では、金属電極あるいはナノカーボン電極の間に挟まれた分子集合体における伝導計算を通して、分子集合体内での電荷輸送における量子干渉効果の解明、予測、制御を目指しておこなってきた。 量子干渉現象とは、伝導電子の量子力学的な位相の重ね合わせにより、伝導電子の振幅が著し く増大したり減衰したりする現象のことである。近年の単分子技術の進展により、単一分子内での電子輸送における量子干渉現象は実験的にも観測されている。 これまでのところ、分子内に奇数員環を含まない、交互炭化水素については幅広く量子干渉現象についての理解が深まっていたが、分子内に奇数員環を含む非交互炭化水素でも、同様に量子干渉現象が実験的に観測されているが、それを適切に説明する理論がこれまでのところ存在しなかったが、本研究により、分子と電極の間の接続を担う官能基であるリンカー部分の波動関数に着目することで、非交互炭化水素における量子干渉現象の理解と予測が可能となった。 これらの進展は今後、交互炭化水素や非交互炭化水素の枠組みを超えて分子集合体における量子干渉現象を理解し、予測し、そしてデバイス化する上で重要な成果であると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
今まで、交互炭化水素だけに限定されていた理論の枠組みを大幅に拡張し、交互炭化水素以外の非交互炭化水素でも量子干渉現象を解析できる理論的基礎を構築することができたことを論文で報告した。 上記の成果を達成する過程で、分子を電極に接続する上で重要となる官能基が量子干渉現象に及ぼす影響についてグリーン関数理論に基づいた数理的基礎となる論文を発表した。 以上の成果は国際学術誌で報告済みであり、同時に国際学会において招待講演を行った。
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今後の研究の推進方策 |
今後は分子のトポロジーに関する側面に注目して、グラフ理論との関連も視野に入れながら、量子干渉現象の概念の拡張と理論の構築を行うとともに、これまでに得られた知見を基にした革新的分子デバイスの理論的設計について取り組んでいきたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成29年度に、量子干渉におけるフォノンの影響を調査する予定であったが、計画を変更し、非交互炭化水素の解析を先行させたので、量子干渉におけるフォノンの影響を調べるのに必要なプログラムと計算機パーツの購入を取りやめたため、未使用額が生じた。 このため、量子干渉におけるフォノンの影響の解析を次年度に行うこととし、未使用額はその経費に充てることとしたい。
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