研究課題/領域番号 |
17K14442
|
研究機関 | 宇部工業高等専門学校 |
研究代表者 |
高田 陽一 宇部工業高等専門学校, 物質工学科, 准教授 (90434042)
|
研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
|
キーワード | 選択的可溶化 / 可逆的可溶化 / 界面活性剤 / 混合ミセル |
研究実績の概要 |
本研究では,これまでによく知られてきた可溶化と従来の界面・コロイド現象を組み合わせて新たな付加価値を創り出すために,溶液中から目的物質のみを取り出す選択的可溶化,そして可溶化した物質を再び放出させる可逆的可溶化の技術を確立することを目的としている。これらの技術からリサイクルが可能で環境に配慮したシステムを構築でき,排水中の汚染物質の除去や香料の徐放性,医学・薬学分野における薬物送達システムへ応用できる。 はじめに選択的可溶化を可能にするために,界面活性剤ミセルに対する被可溶化物の溶解度の差を利用した。炭化水素系化合物と炭化フッ素系化合物は水と油のように互いに混ざらない。そのため,疎水基に炭化水素をもつ界面活性剤と炭化フッ素をもつ界面活性剤の混合物を水中に添加すると,混合組成によって炭化水素系界面活性剤に富んだミセル,あるいは炭化フッ素系界面活性剤に富んだミセルのどちらかが形成される。前者には炭化水素系化合物を,後者には炭化フッ素系化合物を選択的に可溶化できる。また界面活性剤の混合組成を変化させることで炭化水素系界面活性剤に富んだミセルと炭化フッ素系界面活性剤に富んだミセルの間で起こる転移を利用すると,可逆的可溶化も可能になる。 被可溶化物として炭化水素系赤色色素を用いて吸光度測定を行ったところ,炭化水素系界面活性剤に富んだミセルが存在する領域では溶液が赤く着色するのに対し,炭化フッ素系界面活性剤に富んだミセルが存在する領域では溶液がまったく着色しなかった。また炭化水素系界面活性剤ミセルに赤色色素を可溶化させたあとに炭化フッ素系界面活性剤を添加していくと,可溶化した色素が再び析出してくることがわかった。これらの結果から,選択的可溶化と可逆的可溶化のアイディアは実現可能であることが確認できた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
もっとも大きな変化が現れることを期待して選択した炭化水素系界面活性剤と炭化フッ素系界面活性剤の混合系は,被可溶化物が一方には可溶化するのに対し,もう一方にはまったく可溶化しないという予想通りの結果が得られた。そして混合組成を変えることで可溶化した物質が再び析出してくる現象を観察でき,本研究の目的である選択的可溶化と可逆的可溶化の実現可能性を確認できたことは評価できる。 ただし現在のところは定性的な議論にとどまっており,定量的な議論を展開するために評価方法の検討を行っている。1つは時間変化について,可溶化した物質が再び析出してくるまでの時間が想定していた以上に長いことがわかったので,より正確に時間変化を測定するようにしている。もう1つは被可溶化物について,赤色色素以外の物質を使用することで選択的可溶化,可逆的可溶化に与える影響を検討することにしている。その際,有色色素であれば吸光度測定で定量化できるが,無色の化合物であれば困難となるため,ガスクロマトグラフィーを用いた定量化をめざしている。すでに測定を開始しているが,実験条件の設定など検討すべき課題は残っている。
|
今後の研究の推進方策 |
まずは可溶化量の定量化方法を検討する。被可溶化物に選んだ化合物の種類を問わずに測定できるようにすることで実験の幅が広がり,多種多様なデータを得ることができる。特に無色の被可溶化物を用いることが多くなると考えられるので,各種クロマトグラフィーを用いた測定方法の確立を目指す。 当初の研究実施計画では光応答性界面活性剤を用いた被可溶化物の放出制御を予定していたが,昨年度の結果では被可溶化物が再び析出してくるまでに長い時間がかかることがわかった。光を変化の刺激とする場合も時間がかかることが予想されることに加え,考慮すべき実験条件が増えてくることも考えられる。 そこで光応答性界面活性剤の検討と同時に,pH応答性界面活性剤についても検討する。アミノ酸のように親水基に正電荷と負電荷の両方を有している両性界面活性剤はpHによってミセル形成能が変化する。またpH変化に対する両性界面活性剤の応答性が比較的速いため,被可溶化物の放出にかかる時間が短くなることが期待される。 被可溶化物の放出制御とは必要な時間の長短をコントロールできることを含んでいる。速やかに放出できることが望ましい場合もあれば,緩やかに放出できることが望ましい場合もあるためである。その視点から可能性のある実験系を系統的に検討していく予定である。
|
次年度使用額が生じた理由 |
当初は実験結果に応じた研究打ち合わせや外部での測定を想定した旅費を計上していたが,現段階では基本的に所属機関内で完結させることができているために旅費は使用しなかった。ただし主に試薬類で想定以上に経費が嵩んだため,計上していた旅費より少ない金額が残額として生じている。 次年度は実験系がより複雑になり,測定方法や解析方法を広げていく必要がある。特に所属機関が有していない分析機器を使用していかなければならない場面が生じてくると考えているので,そちらの経費として使用計画を立てている。
|