研究実績の概要 |
本年度は大環状分子を有するカテナン構造の精密合成を検討した。両末端にアルケン部位を有するビス(2,2'-ビピリジン)を導入することで、大環状分子前駆体を合成した。ここに銅(I)錯体を添加したところ、ビピリジン部位における1H NMRスペクトルの変化かららせん構造の形成が確認された。続くアルケンメタセシス反応を行ったところ、らせん構造によって接近した末端アルケン同士の分子内閉環反応を経て、大環状分子の形成が確認された。従って本手法は大環状構造を有する超分子合成への基幹技術となることが示された。 また、研究を進める中で偶然にも、発光部位を有する[3]ロタキサン構造がサーモクロミック応答を示すことを見出した。[3]ロタキサンにおける2つの環状分子は室温では発光部位に近接しているものの、加熱によって熱的なシャトリングを生じ、露出した発光部位が周囲の分子と相互作用することで、熱的に発光変化が誘起された。この変化は加熱・冷却のサイクルに対して可逆的であったことから、熱によって光学特性が変化するサーモクロミック応答であることが明らかとなった。ロタキサン構造の熱シャトリングは分子機械領域において比較的初期から報告されいたものの、停留点(ステーション)制御が困難であることから材料物性を向上させる設計としてはほとんど用いられてこなかった。一方本手法は超分子構造の熱シャトリングによって、シャトリングを起こさない材料よりも鋭敏な熱応答性を発現したことから、センサ材料における新しい設計指針を示したといえる。
|