本研究では、Stacked-Ring Aromaticity(SRAと略記)、すなわち反芳香族化合物の対面型積層に伴う芳香族性の転換を実験的に観測することを目的とし、それに適した反芳香族化合物の合成とその集積化を昨年度から継続して行った。昨年度合成した、ベータ位にシアノ基を4個有する反芳香族イソフロリンにおいてその金属錯形成による集積化を試みたが、目的物は得られなかった。そのため、関連する誘導体を合成し、同様に集積化をを検討している。 また、この研究の過程で反芳香族イソフロリンが、通常の有機分子とは異なる特異的な発光特性を有することが予備的な実験から明らかになった。今後、継続してこの発光特性の評価を行い、新たな発光色素の創製を目指す。 一方で、昨年度合成したカチオン型ポルフィリン積層錯体が、反芳香族性を示す可能性を示した。これも新規のSRAと考えられるため、今後さらなる評価を行いその性質を明らかにする。 また、縮環ポルフィリン2量体を構成要素とする希土類積層型錯体を合成した。その2電子酸化体が、高い一重項ビラジカル性および著しく小さいHOMO-LUMOギャップを有することを明らかにした。
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