研究実績の概要 |
本研究は、カーボンナノチューブ(CNT)に有機色素を内包させ、光機能デバイスの可視光利用効率を向上させることを目的としている。分子サイズのコンパクトさと長波長可視光吸収を両立させるため、チオカルボニル基の特性を活用することが本研究の特徴である。 これまでに、ジチオフェンをコアとする色素を開発し(極大吸収波長477nm (ε= 26800))、そのCNT内包挙動を検討してきた。今回、より長波長の可視光利用を目指し、チオフェン四量体であるクォーターチオフェンをコアとする色素開発を行った。直接アリール化反応による骨格形成反応を検討したところ、収率は低く、溶解性にも難があった。しかし、臭素部位の隣接位にメチル基を導入することで、収率および溶解性の改善に成功した。得られた化合物をローソン試薬で硫化することで目的の色素を合成し、π共役系の拡張による吸収波長の長波長シフトを確認した(極大吸収波長519nm (ε= 34200))。 更なる吸収波長の長波長化を目的として、2,1,3-ベンゾチアジアゾール(BTD)部位の活用を検討した。電子豊富チオフェンとBTDジブロモ体の直接アリール化反応を開発し、得られたオリゴマーを色素分子の骨格に活用した。その結果、更なる吸収波長の長波長シフトに成功した(極大吸収波長597nm (ε= 43800))。 得られた色素を有機溶媒中でCNTと混合することで、簡便に内包させることに成功した。色素内包CNTの吸収スペクトルを解析したところ、内包色素に由来する光吸収増が確認された。 得られた色素内包CNTを光触媒システムに応用し、水素の量子収率を向上させることに成功した。特に、BTDオリゴマー型色素を内包させた場合、波長650 nmの光照射条件下で量子収率22%という高い効率を示した。(色素なしの場合は同条件下で量子収率0.018%。)
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