フッ化水素酸は、安価なフッ素化試薬として工業的にも幅広く利用されているが、精密有機合成への利用は制限されている。その理由として、水溶液状態のフッ化水素が安定な水和物として存在しているために反応性が下がっていること、また水の存在下で使用できる有機合成反応が少ないことが挙げられる。そこで本研 究では、HFへの高い配位能を有するウレア部位を導入した不斉相間移動触媒を創製し、HFの水層から有機層への効果的な移動を可能にすることで、有機層での不斉フッ素化反応を目標とした。
まず、本研究で提案した新規触媒合成の確立を目指し研究を展開した。当初想定していたウレア触媒のモデル骨格の合成には成功したが、その後、基質拡張に困難があることが判明した。そのため、当初予定していたウレア部位ではなく、同様にHFを補足しうる別の官能基を模索した。その結果、非常に強い水素結合受容体であるNオキシド部位に着目し、様々なシンコナルカロイド由来のNオキシド化合物の合成に成功した。合成した触媒はフッ化水素と混合し19F NMRを測定することで会合を確認することができた。引き続き、置換基が会合にどのような影響を与えるか、また想定しているフッ素化反応が可能かどうかを確認する。
また、触媒合成の過程で非常に興味深いアミン触媒を合成することに成功したので、有機触媒としてアルデヒド、ケトン類のフッ素化反応へと応用した。その結果、今まで報告のない反応性、選択性を発現することを確認した。
|