芳香族分子を官能基化しつつ脱芳香族させる手法、すなわち、脱芳香族的官能基化反応の開発を目指した。特に、ベンゼンなどの電子的偏りの小さい不活性化合物に対する手法は限られている。既存の手法では1) 多量の遷移金属試薬の使用、2) 過剰量のベンゼン類の使用を必要としており、触媒的かつ一当量のベンゼン類に対して有効に働く反応系はほとんどないのが実情であった。この問題に対して、ベンジル位の結合の触媒的切断を反応の起点とすることでこれらの課題が解決できると考えた。本研究で標的としたのは汎用骨格であるベンジルアルコール類である。検討の結果、パラジウム触媒存在下、ベンジルアルコールから簡便に誘導できるベンジルホスファートやカーボナートに対して、アリルボラートを反応させることで目的とする脱芳香族的アリル化が進行することがわかった。当初の目論見通り、本反応は触媒的に、かつ一当量のベンジルホスファート類を用いることで高い収率で対応する脱芳香族体を与えた。ベンジル位の結合切断を促進する高い電子供与性の配位子をもつパラジウム触媒の適用が重要であり、金属上の電子密度を高くしていくにつれて反応の収率が向上した。また、生成する化合物の誘導化にも成功しており、合成的に有用な脂環式ビルディングブロックを簡便に合成することに成功した。本研究を基盤とし、初期的な結果として、ベンジル位炭素ー酸素結合切断に加え、他の炭素ーヘテロ結合切断をともなう脱芳香族的官能基化も見いだした。
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