研究課題
本研究課題では多核金属錯体をベースに、フラストレートした局在d電子と導電カラムのπ電子が強く相互作用した導電性分子結晶を作成することにより、新しい分子性スピントロニクス材料の開拓を目的として研究を行っている。今年度に得られた研究結果の概要は以下の通りである。・シアン化物イオンが配位した鉄3価3核錯体において、3つの鉄イオンのdスピン間に反強磁性的相互作用が発現することと、電解酸化で生じるπラジカルが配位子内で非局在化することを見出した。この錯体の結晶構造と固体物性、溶液中の酸化還元特性について、単結晶構造解析や各種電解スペクトル測定により詳細な研究を行い、現在論文投稿準備中である。これらの磁気的特性および酸化還元特性は本研究で目的とするスピントロニクス材料に適していると思われ、現在この錯体をベースとした分子性導体の作成について研究を行っている。・チオシアン酸イオンが配位した鉄3価3核鉄錯体がスピンクロスオーバーを発現することを見出した。現在そのスピン転移挙動と、架橋配位子を介した相互作用とスピン転移現象の関連について、詳しく検討を行っている。鉄3価イオンでチオシアン酸イオンが配位したスピンクロスオーバー錯体は、我々が知る限り初めてである。・これらの3核錯体について、主に電解結晶化法を用いて分子性導体の作成を行っている。現在のところ伝導性の高い結晶はまだ得られていないものの、3核錯体がもつ特異な磁性と伝導性が強くカップリングしたユニークな分子性導体の開発を目指して研究を行っている。
2: おおむね順調に進展している
今年度は目的とする新規錯体の合成に成功し、またその物性について詳細に明らかにすることができた。加えて予期しなかったスピンクロスオーバー錯体も得られており、研究は順調に進展していると考えている。
今年度の研究で得られた種々の錯体をベースとして、電解結晶化による分子性導体の作成を継続して行う。現状にて必要な設備は揃っているものの、必要に応じてさらなる設備や器具の拡充を行う。引き続き研究計画に従って、磁性と伝導性が強くカップリングした分子性導体の作成に邁進する。
主に電解結晶化に関わる購入物品について、研究室の遊休品を活用することで当初の見積もりよりも安価に済ませることができた。繰り越し分は試薬類などの消耗品として使用する予定である。
すべて 2018 2017
すべて 雑誌論文 (9件) (うち査読あり 9件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (1件)
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