研究実績の概要 |
本研究課題では多核金属錯体をベースに、フラストレートした局在d電子と導電カラムのπ電子が強く相互作用した導電性分子結晶を作成することで、新しい分子性スピントロニクス分野の開拓を目指して研究を行ってきた。 本年度は、前年度合成に成功した鉄3価3核錯体の酸化還元特性と電子状態について、より詳細に研究を行った。その結果①大きなπ平面をもつ新規三角形型架橋配位子が多段階酸化還元活性を有すること、②酸化によって架橋配位子にπラジカルが生成し、鉄3価イオンのdスピンと磁気的に強く相互作用すること、③3電子酸化体においては配位子上のπスピンが分極してフラストレートした状態をとることが判明した。 これらの研究成果について論文発表したほか(Hoshino et al., Chem. Eur. J., 2018, 24, 19323)、国際学会(ICMM2018)にて口頭で発表した。また③に関しては、フラストレーション状のスピン構造をもつπラジカルは、局在dスピンとの相互作用によりしたユニークなd-πフラストレーション系の構築に非常に有用と思われ、これを生かした分子性スピントロニクス素子の開発を今後行う予定である。 また多核金属錯体ベースの導電性分子性結晶合成の試みとして、白金2価3核錯体(Vezes塩)をベースとした次元性錯体の合成を行った。白金2価3核錯体をベースに、4種類の次元性錯体を合成し、その結晶構造と気体吸着特性について調べた。このうち3次元構造をもつ錯体は、-78℃におけるCO2吸着においてXRD(in situ)パターンに変化がなく、ゲスト誘起型の構造変化を示さないことが判明した。意外にも分子性結晶において構造変化を伴わない気体吸蔵の報告例は僅少であり、これについて論文発表を行った(Hoshino et al., Dalton Trans. 2019, 48, 176.)。
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