研究課題/領域番号 |
17K14456
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
小谷 弘明 筑波大学, 数理物質系, 助教 (10610743)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 酸化還元活性 / 分子内電子移動 / 脱プロトン化 / 配位子ラジカル / 速度論解析 |
研究実績の概要 |
酸化還元活性(redox non-innocent)な配位子を有する遷移金属錯体は、金属イオンと配位子間での分子内電子移動により金属の酸化数の変化や配位子ラジカルの生成など、多彩な金属錯体の機能発現が期待できる。近年、高いルイス酸性を示すRh(III)イオンを中心金属に用いたRh(III)-TPA錯体(TPA: tris(2-pyridylmethyl)amine)に塩基を作用させると、酸化還元活性な脱プロトン化TPA配位子が生成する事が報告された。本研究では、酸化還元活性と高いルイス酸性を示すCo(III)イオンと脱プロトン化TPA配位子との分子内電子移動を利用したCoIIITPA錯体の電子構造の改変を目的として、TPA誘導体を支持配位子とするCo(III)-LH6錯体(LH6: tris(5-methoxycarbonyl-2-pyridylmethyl)amine)の合成と脱プロトン化錯体の同定を行った。また、分子内電子移動によるCo(II)配位子ラジカル錯体の生成に関して、Co(III)イオンに対して異なる電子供与性を示す二座キレート配位子である1,3-ジケトナト誘導体(dbm-X: X = H, Cl)による制御を行った。また、酸化還元活性と高いルイス酸性を示すCo(III)イオンとTPA配位子を組み合わせることにより、TPA配位子の脱プロトン化をトリガーとした分子内電子移動の発現とラジカルカップリング反応の進行を見出した。また、1,3-ジケトナト補助配位子の2位に導入した置換基により、Co(III)イオンの還元電位を変化させることで、脱プロトン化錯体における脱プロトン化TPA配位子からCo(III)イオンへの分子内電子移動の制御に成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
概要に記載した通り、Co(III)-LH6錯体を脱プロトン化することで、脱プロトン化配位子からCo(III)イオンへの分子内電子移動が起こり、配位子ラジカル錯体が生成していることを示す事ができた。この分子内電子移動は、Co(III)中心の酸化還元電位に大きく依存していることから、この電位制御を行う事で脱プロトン化をトリガーとする分子双安定性発現できることが判明した。その結果、初年度の成果としては順調に進展したと考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
今後は論文発表も含め、この脱プロトン化に伴う分子内電子移動によるラジカル種の生成を優先的に行う錯体の合成やその反応機構を以下の方針に従って遂行する。 1)Co(III)中心の酸化還元電位を制御するため、二座キレート配位子だけでなくTPA類縁体の電子供与性も変化させ、熱力学的に安定なCo(II)配位子ラジカル錯体の生成を目指す。 2)ラジカルカップリング反応の生成物同定や反応機構解明を行い、Co(II)配位子ラジカル錯体に特徴的な反応探索を行う。 3)Co(III)イオンだけでなく、他の遷移金属イオンを用いて塩基の添加により原子価互変異性(分子内電子移動)が観測出来るかについて検討を行う。
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