本研究では、酸化還元活性と高いルイス酸性を示すCo(III)イオンと脱プロトン化に伴い酸化還元活性が発現するTPA誘導体配位子からなるCoIII-TPA誘導体錯体において、脱プロトン化TPA配位子からCo(III)中心への分子内電子移動を利用したCoIIITPA錯体の電子構造の改変を目的として、Co(III)-LH6錯体(LH6: tris(5-methoxycarbonyl-2-pyridylmethyl)amine)の合成と塩基の添加のみをトリガーとする分子内電子移動の発現、及び電子供与性の異なる補助配位子による分子内電子移動の制御を目指した。 脱プロトン化錯体と酸素、もしくはN-オキシルラジカルであるTEMPOとの反応を行った場合、速やかに[CoIII(dbm-H)(LH5)]+の減衰が観測された。[CoIII(dbm-H)(LH5)]+と酸素との反応の場合、配位子に酸素分子が直接結合したCo(II)の中間体がCSI-MSによって検出された。また、TEMPOとの反応では脱プロトン化部位であるアキシャル位のメチレン鎖にTEMPOが結合した錯体の生成を観測出来た。これらの結果は、脱プロトン化錯体上における脱プロトン化配位子からCo(III)イオンへの分子内電子移動が、後続の安定な生成物を与えるラジカルカップリング反応と共役して進行することが示された。
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