平成30年度は平成29年度までに得られた成果である銅ハロゲンクラスターを基盤とする新たな細孔性ネットワーク錯体をもとに、その性質を探求し、活性ナノ空間の性質を調べた。 まず、CuBrと四面体型(Td)配位子からなるCu2Br2を有する速度論ネットワーク錯体について、真空下で300℃に加熱すると強い発光性のネットワーク錯体へと変換することを明らかにし、その構造が銅の配位高分子中にCuBr2アニオンが取り込まれたものであることを粉末X線未知構造解析により明らかにした。加熱前後でその発光強度は1000倍以上に増加した。これは熱的変換により、より剛直なネットワーク錯体の生成が行われたためと考えられる。これは活性ナノ空間をベースにした新機能性材料の合成につながるものと考えられる。CuBrをCuClとした場合はさらに異なるネットワーク錯体の生成が示唆された。 さらに、Td配位子にC3対称性の配位子を組み込んだCuIを基盤とするネットワーク錯体の合成にも成功した。この場合、活性ナノ空間には銅の不飽和サイトと配位子の官能基の双方が存在しており、触媒活性サイトとなることが期待された。このため、臭化ビニルを取り込ませたところ、この活性サイトのおかげで効率のよい取り込みが行われた。このような活性サイトは基質に対して協奏的に働くことが期待される。 さらにTd配位子の有するピリジル基のNの位置を4位から3位にした配位子についても種々のネットワーク錯体の合成に成功し、4位のものとは異なり、非常に柔軟なネットワーク錯体を形成することが可能であることを明らかにした。
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