研究課題/領域番号 |
17K14465
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研究機関 | 北里大学 |
研究代表者 |
吉田 純 北里大学, 理学部, 講師 (60585800)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 金属錯体 / 粘土鉱物 / 酸化還元 / 近赤外線 / 液晶 / スイッチング |
研究実績の概要 |
太陽光の有効活用は、化学分野が総力を挙げて取り組むべき最も挑戦的な課題と言える。本研究では、太陽光中の近赤外線を有効利用するために、状況に応じて近赤外線吸収と透過を切り替え可能な「外場応答型の近赤外線吸収材料の創製」を目的としている。 そのために、(1)酸化還元に応じて近赤外線吸収のオンオフが可能な材料、(2)粘土鉱物と(1)の複合化による材料の安定化を達成する必要がある。本年度は、近赤外線吸収と透過のスイッチングが可能な材料としてルテニウム金属錯体の開発を行った。種々のトロポロン誘導体を配位子とするルテニウム(III)錯体を合成し、その電気化学および分光電気化学測定を行った。結果として、トロポロン配位子の共役系を伸ばした場合に、一電子酸化体が近赤外吸収を示すことがわかった。一般にトリスキレート錯体では、中心金属を介した配位子間の電子的相互作用は弱いとされる。一方、今回合成した一連のルテニウム錯体では、複数の配位子上のpi軌道が、中心金属のd軌道を介して共役する様子が顕著に見られた。すなわち、錯体全体を一種のpi拡張系としてみなすことが出来る。これは、トロポロン配位子がノンイノセントな挙動をもつためだと考えている。また、粘土表面への固定化に向けて、錯体に長鎖アルキル鎖を導入も試みた。錯体が一種の界面活性剤として機能し、リオトロピック液晶性を持てば、水溶液中で粘土への固定化が可能になると考えた。現状、アルキル鎖導入は低収率に留まっている。2018年度は、収率向上を図りつつ、粘土への固定化を行い、近赤外線吸収のスイッチングのを検討する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
酸化還元に応じて近赤外線吸収のオンオフが可能な材料として、ルテニウム錯体の新規合成を行った。トリスキレート錯体である[Ru(trop)3] (Htrop=tropolone)にpi共役系を持つ置換基を導入し、CV測定や分光電気化学測定を行うことで錯体の電気化学的な挙動を調べた。測定の結果、酸化状態の錯体のΔEの値や波数が小さくなった。これは、[Ru(trop)3]にπ共役系を持つ置換基を導入することで錯体のHOMO-LUMOギャップが小さくなり、中心金属を介した配位子間の電子的な相互作用が起きていると示唆された。さらにそのHOMOは、中心金属を介して錯体全体に非局在化していることが示唆された。一般にトリスキレート錯体では、中心金属を介した配位子間の電子的相互作用は弱いとされる。近赤外線吸収材料の効率合成には、配位子間の相互作用を明らかにすることが必須だと考え、3つのtrop配位子へ系統的にエチニルベンゼン、エチニルトリメチルシリルを導入し、電気化学的測定を行った。結果、確かに1つの配位子のpi拡張が錯体全体の近赤外線吸収に影響を与え、[Ru(trop)3]全体が一種のpi共役系として働くことが明らかとなった。 さらに、錯体の粘土表面への固定を促進するために、すでに導入してあるアルキン部位へHuisgen反応を利用して、長鎖アルキル鎖の導入を試みた。アルキルベンゼンの導入は成功したものの、アジドの調製にとまどり、粘土への固定化に最適な官能基の選定は完了していない。
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今後の研究の推進方策 |
初年度の目的とした酸化還元活性なルテニウム錯体の開発は概ね終了したものの、粘土への固定化に有効と考えた、末端にカチオン部位をもつ長鎖アルキル鎖の導入を今後行う必要がある。アジド調製に予想以上に時間を要したことから、2018年度は市販アジドを利用するほか、中間体の精製にHPLCを活用したいと考えている。そこで2018年度にHPLCを新規導入する。合成段階での研究速度を加速させた後、リオトロピック液晶性の付与、粘土への固定化、近赤外線吸収のスイッチング等の残りの課題を達成してしたいと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
少額の残金が残ったが、必要な試薬を購入する金額には不足していた。 2018年度分と併せて使用する。
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