研究課題/領域番号 |
17K14466
|
研究機関 | 国立研究開発法人物質・材料研究機構 |
研究代表者 |
辻本 吉廣 国立研究開発法人物質・材料研究機構, 機能性材料研究拠点, 主任研究員 (50584075)
|
研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2019-03-31
|
キーワード | 複合アニオン / 層状化合物 / 配位構造 / 高圧X線回折 / スピン転移 |
研究実績の概要 |
固体,とりわけ酸化物のような堅い物質の配位は,様々な配位子を取り得る有機金属分子とは異なり熱力学安定性に強く依存するため,配位化学に特化した合成化学は大きな進展を見せなかった.しかし,近年,通常の高温固相反応とは一線を画す新しい合成法が次々と開発され,それと同時に従来の相図では現れない,もしくは見落とされていた新規な配位状態が発見されている.その大きな契機となったのは,異種のアニオンを含んだ複合アニオン化合物の発展であり,単一のアニオンでは形成し得ない新しい配位環境の安定化が可能となる.筆者は,特に酸素とハロゲンを組み合わせることによって生じる配位数の低下に注目し,高圧合成もしくは低温合成を駆使することにより,新規平面4配位及び正方四角錐配位物質の合成に成功してきた.本研究課題の初年度は,高温固相反応法によりScが5配位をもつ新規化合物Sr2ScO3Cl, Sr3Sc2O5Cl2, Ba3Sc2O5Cl2を合成することができた.Scイオンは一般的に6配位,もしくはそれ以上の配位数をとる傾向があるが,酸素と塩素原子の異なるイオン半径,価数,結合性の違いが正方4角錐構造の安定化へ導いたもとのを考えられる.構造解析により塩素原子は頂点サイトで秩序配列することがわかった.Scと塩素原子間の結合距離はイオン半径の総和よりも十分に大きく,相互作用は極めて弱くかつイオン結合的であることが示唆される.実際,第一原理計算はこのことを支持している.現在,これらの物質が光触媒,蛍光体,またはイオン伝導体の母材として活用できるかどうか検討を行っている.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度で発見した3つのSc酸塩化物については基礎構造の解析を終えており,論文も受理され近々出版される予定である.現在,機能の開拓を目的に,これらの物質の光触媒活性,蛍光特性およびイオン伝導特性を引き出せられないか,検討を行っている.他に,層状酸塩化物Sr2CoO3Clの高圧X線回折実験を行っている.圧力は局所構造に影響を与える重要なパラメータである.Sr2CoO3ClはSr2ScO3Clと同構造でCoの正方四角錐配位を有する.筆者は過去に類似構造体の酸フッ化物Sr2CoO3Fにおいて,数十GPaもの圧力を印加することにより,5配位から6配位へCoのスピン転移と共に変化することを見出している.酸塩化物の場合,同様の局所構造変化が起きるのか調べたところ,格子定数に異常が観測され何らかの変化が構造に生じていることが示唆された.現在,詳細な構造解析を行っている最中である.
|
今後の研究の推進方策 |
初年度では合成または圧力による配位構造変換の研究を行った.今年度は圧力誘起配位構造変換と高圧物性の相互理解を目的に研究を進める.前年度はCoイオンのスピン転移が関与した配位構造変換であるが,この配位構造変換がスピン転移によってもたらされるのかどうかはまだはっきりと解っていない.そこでスピン転移を生じない元素からなる類似構造化合物に対して高圧X線回折実験を行い構造解析によって比較検討する.対象物質はNi3+からなるSr2NiO3X (X = F, Cl)である.このNiイオンは低スピンであるため,圧力を印加してもスピン転移が生じる可能性はない.また,興味深い点は,ニッケルの三価は高原子価であるため3dエネルギー準位がより低くなり,酸素のp軌道にホールを生じる傾向がある.このようなリガンドホールは異常な非局在性を有し,磁性と絡んで新奇な電子状態が生まれることがよく知られている.本系では,同一平面にあるNi-O-Niの結合角が大きく歪んでいるため,リガンドホールが強く局在しているが,圧力によってCo酸ハロゲン化物のときと同様の配位構造変換が起きれば金属伝導性が生じるものと期待される.従って,高圧化の物性は主に電気伝導率を測定することによって評価を行う.
|