研究課題/領域番号 |
17K14467
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
北川 裕一 北海道大学, 工学研究院, 特任助教 (90740093)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 希土類錯体 / ユーロピウム / 発光 / 超分子 / π共役分子 |
研究実績の概要 |
キラルな分子が配位した希土類イオンの発光は他分子では達成できない高い円偏光発光(CPL)特性を示すことが知られている。このような高いCPL特性を示す分子は高輝度液晶ディスプレイ用偏光光源やセキュリティ分野への応用が期待されている。しかし、キラル配位子の合成においてキラル試薬を用いない手法(低環境負荷・低コスト)をとることが困難であった。そこで本研究では、アキラルな希土類錯体から構成され、高いCPL特性を示すキラルな超分子の合成法を検討した。
1. 超分子のユニットとして適したアキラルな希土類錯体の設計・合成・光物性評価を行った。アキラルな配位子の設計はフラグメント分子軌道法と密度反関数法を併用して行った。その設計に基づき、トリフェニレン骨格を導入したホスフィンオキシド配位子、およびそれを配位させたEu錯体を合成した。ホスフィンオキシド配位子はブロモトリフェニレンとクロロジフェニルホスフィンを原料に用いて合成した。合成した配位子とヘキサフルオロアセチルアセトンが3つ配位したEu錯体について錯形成反応を行った。得られたEu錯体の吸収特性を吸収スペクトル、発光特性を発光スペクトル、励起スペクトル、発光量子収率測定、発光寿命測定により評価した。その結果、このEu錯体は高い光吸収能力と高い発光量子収率に基づき高輝度発光を示することが明らかとなった。また、それらが集積した粉体状態において300℃を超える高い熱分解温度を示すこともわかった。
2.希土類錯体のCPL特性は希土類金属の5d軌道とキラルな配位子のπ(またはσ)軌道の重なりに影響を受けると考えられる。その電子構造の情報を含む4f-5d遷移のエネルギー準位を磁気円偏光二色性スペクトル測定を用いることで評価できることが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成29年度は超分子のユニットとして適したアキラルな希土類錯体の設計・合成・光物性評価を行った。Eu錯体の強発光化のためにはEuイオンの発光準位より高い励起三重項準位を有する有機配位子の導入が必要不可欠となる。また超分子を形成させるためには大きなπ共役分子が必要であるため、本研究ではπ共役拡張時に励起三重項準位が維持できる設計を行い、それに基づき新規Eu錯体を合成した。そのEu錯体はπ共役拡張により光吸収能力が向上したことで、従来よりも強い発光を示した。また、この錯体が集積した状態(粉体)でも強発光特性を維持していた。そのため、このEu錯体を利用することで高輝度発光を示す超分子が合成できると期待できる。 以上からおおむね順調に研究が進展している。
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今後の研究の推進方策 |
平成30年度は平成29年度に合成した希土類錯体を流体運動を利用することでキラルな超分子合成を検討する。種々の流体運動の条件(濃度、回転方法・速度、容器等)で合成した超分子のCD・CPL測定を行い、最もキラル光学特性が大きくなるEu錯体超分子の合成法を明らかとする。また得られた超分子の電子吸収、発光、励起スペクトル、時間分解発光・発光量子収率測定を行う。Eu錯体とそれにより構成されたEu超分子の光物性を比較することで、有機配位子間ではたらく相互作用がEu錯体の発光に与える影響について明らかとする。さらに合成した超分子のX線構造解析を検討する。それが困難である場合は、DFT計算により安定構造を探索し、その構造を基に分光データを解析していく。
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