平成30年度は,昨年度に引き続きアミノ酸ジアミドを利用する精密超分子重合の確立に向けて,アミノ酸残基の効果について検討した.残基の異なるアミノ酸のC末端とN末端に,発光性のπ電子系化合物であるピレン誘導体と可溶性基をそれぞれ導入したピレン置換アミノ酸ジアミドを合成した.低極性溶媒中,ジアミド部位の分子内水素結合の形成によるフォールディング過程と,分子間水素結合を駆動力とする自己集合過程を種々のスペクトル測定と顕微鏡観察により評価した.その結果,超分子重合の初期過程において,フォールディングした単分散状態の速度論的な安定性と,超分子ポリマーの熱力学的な安定性がアミノ酸残基によって異なることがわかった.残基の異なるピレン置換アミノ酸ジアミドを混合させた準安定な単分散溶液に対し,対応する集合体の断片(種,タネ)を添加したところ,選択的に超分子重合を開始できることを見出した.
また,水媒体中において準安定状態を利用する超分子重合の確立を目指し,親水性基とベンズアミド基を有するジケトピロロピロール(DPP)誘導体を設計,合成した.DPP骨格は集合化により特異な光・電子特性の発現が期待できる色素である.集合特性を評価した結果,長波長側に新たな吸収帯をもつファイバー状集合体を形成することがわかった.また,時間依存吸収スペクトル測定により集合過程を追跡した結果,自発的な集合が抑制された誘導期を確認した.単分散状態に関して量子化学計算を行った結果,水分子存在下ではベンズアミド基のフェニル部位がDPP部位に重なるように折りたたまれた構造がエネルギー的に安定であることが示され,誘導期における分子構造について重要な知見が得られた.また,種の添加により超分子重合の開始過程と集合体構造の速度論的制御に成功した.
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