研究課題/領域番号 |
17K14472
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
波多野 さや佳 広島大学, 理学研究科, 助教 (30648689)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 逆フォトクロミズム / ノルボルナジエン / クアドリシクラン / 光物性 |
研究実績の概要 |
本研究では、ノルボルナジエン(NBD)誘導体の置換基効果によるフォトクロミック挙動を系統的に明らかにし、新たな逆フォトクロミック分子を確立することを目的とする。光照射によって着色体から消色体に変化する逆フォトクロミック分子は、現状、分子設計段階で逆フォトクロミズムを示すことが明確に予測できる分子骨格が確立されていない。本研究では、NBD誘導体を用い、明確に逆フォトクロミズムを示す分子としてそのフォトクロミック挙動を系統的に明らかにすることで、今までのフォトクロミック分子では不可能であった新たな物性を発現する分子を開拓し、これまでにない機能性材料への応用へと展開させることを目的とする。 ノルボルナジエン(NBD)誘導体は光照射により二重結合部位の結合組み換えが起こることで、クアドリシクラン(QC)誘導体と呼ばれる多環状炭化水素へと変化し、触媒または熱的に元のNBDに戻ることが報告されている。この系では、光照射によりNBDの2つの二重結合が開裂してQCが形成される際、共役長が減少するために逆フォトクロミズムが生じることが期待される。これまでの研究結果から、これまで合成したNBD誘導体は、(1)NBDからQCへの光異性化率が低い、(2)NBD誘導体の長波長領域の吸光係数が小さく色変化が乏しい、(3)合成が難しく収率が低いと言った課題が挙げられる。 そこで平成29年度は、合成の簡便化を図るため、片側の二重結合部位にドナーおよびアクセプター性置換基を導入した分子を新たに設計し、その合成を試みた。また、量子化学計算(DFT:B3LYP/6-31G (d))を行って適切な置換基を検討した結果、片側の二重結合部位にドナーおよびアクセプター性置換基を導入した系でも、比較的振動子強度の強い吸収が可視光領域に現れることがわかり、逆フォトクロミズムを示す可能性を裏付ける結果が得られた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
平成29年度は年次計画に従い、片側の二重結合部位にドナーおよびアクセプター性置換基を導入した新規逆フォトクロミック分子の開発を試みた。この分子設計では、市販されている試薬を前駆体として用いることが可能なため、合成が簡便になるという利点があり合成過程は減らすことができた。しかし、各段階での目的化合物を単離・精製が計画どおりにいかず、現時点で目的とする化合物は得られておらず、平成29年度計画で目標にしていた新規逆フォトクロミック分子の開発まで至っていないため。
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今後の研究の推進方策 |
平成30年度は合成方法の再検討を行って、目的化合物の合成を試みる。また、目的化合物を合成次第、フォトクロミック特性の検討を行う。紫外可視分光光度計を用い、光照射前後の溶液の吸収スペクトル、および光照射によって生成する異性体の熱戻り反応過程の経時変化を測定して、フォトクロミック挙動の大枠をとらえる。また、光照射によって生成する異性体クアドリシクランの熱戻り反応速度が高速であった場合は、レーザーフラッシュフォトリシス測定や低温条件での分光測定を行って、フォトクロミック特性を明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
当該年度は、分子設計・合成を行った目的分子が合成できず、フォトクロミック分子の物性評価を行うことができなかったため、当初購入を予定していた物性測定に必要な装置の購入を見送った。そのため、翌年度分として助成金の請求を行う。 30年度は目的化合物合成のための試薬や必要となる物品の購入を検討している。また、測定を行う際に必要となる物品の購入も検討している。
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