光照射によって2つの異性体間で物性変化が生じるフォトクロミック分子は機能性材料への応用が研究されているが、光照射時に消色する“逆フォトクロミズム”を示す分子は報告例が少ない。その一因として、逆フォトクロミック分子は現状、分子設計段階で逆フォトクロミズムを示すことが明確に予測できる分子骨格が確立されていないことが挙げられる。本研究では、ボルボルナジエン(NBD)誘導体を用い、明確に逆フォトクロミズムを示す分子としてそのフォトクロミック挙動を系統的に明らかにすることで、今までのフォトクロミック分子では不可能であった新たな物性を発現する分子を開拓し、これまでにない機能性材料への応用へと展開させることを目的とした。 ノルボルナジエン(NBD)誘導体は光照射により二重結合部位の結合組み換えが起こることで、クアドリシクラン(QC)誘導体と呼ばれる多環状炭化水素へと変化し、触媒または熱的に元のNBDに戻ることが報告されている。この系では、光照射によりNBDの2つの二重結合が開裂してQCが形成される際、共役長が減少するために逆フォトクロミズムが生じることが期待される。これまでの研究結果から、これまで合成したNBD誘導体は、(1)NBDからQCへの光異性化率が低い、(2)NBD誘導体の長波長領域の吸光係数が小さく色変化が乏しい、(3)合成が難しく収率が低いと言った課題が挙げられる。 平成30年度は、前年度に量子化学計算(DFT:B3LYP/6-31G (d))によって分子設計を行ったNBD骨格の片側の二重結合部位にドナーおよびアクセプター性置換基を導入した目的化合物の合成を試みたが、シクロペンタジエン誘導体とのDield-Alder反応がうまく進行せず、目的物合成には至らなかった。目的の物性発現を主体に分子設計を行ったが、合成法も考慮した分子設計が必要であった。
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