研究課題/領域番号 |
17K14473
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研究機関 | 宮崎大学 |
研究代表者 |
鍋谷 悠 宮崎大学, 工学部, 准教授 (50457826)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 分子系包接環境 / アゾベンゼン / フォトクロミズム / 層状化合物 / ナノシート / 人工筋肉 / 光アクチュエーター |
研究実績の概要 |
本研究の目的である光反応で分子の吸脱着を制御できる新しい分子吸着層状複合材料の開発において、平成29年度は、無機ナノシートと多フッ素化アルキルアゾベンゼン誘導体からなる層状複合体の作製と、その層状微細構造や層間伸縮などの光機能の観測を行い、層状複合体の作製技術と光反応による機能発現に関する研究成果を得た。 研究実施計画で挙げた無機ナノシート合成とアゾベンゼン分子との複合化については、層状化合物のチタン酸セシウムを合成し、多段階のゲスト-ゲストイオン交換法により、カウンターカチオンを交換しながら目的のアゾベンゼン分子をインターカレーションして、層状複合体を作製することに成功した。得られた層状複合体を光異性化反応させてX線回折測定によりその層状構造の変化を観測したところ、トランス-シス異性化により層間が縮小し、シス-トランス異性化により層間が拡大して可逆的に層状空間の制御ができることを見出し、アゾベンゼン分子とチタン酸ナノシートの複合化により層間伸縮機能を発現させることに成功した。また、チタン酸に加えて粘土鉱物のモンモリロナイトとの複合化も行い、光機能化に成功した。 一方、層状複合体の微細構造解析については、X線回折測定に加えて熱分析を行ったところ、高密度に分子がインターカレーションし、層間で二分子膜構造を形成することを明らかにした。また、モンモリロナイトとアゾベンゼンの層状複合体薄膜については、光反応による形態変化の顕微鏡観測を試みたが、予想をはるかに超えた巨視的な屈曲運動を示したため、薄膜の形状変形を直接観測を行ったところ、薄膜が大きく形状変形することを見出した。 本研究では、新たな光メカニカル機能を示す複合体系の構築に成功すると共に、異なる微細構造の層状複合体を作製できたことから、目的の新しい分子吸着層状複合材料開発につながると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、無機ナノシートと多フッ素化アルキルアゾベンゼン誘導体を組み合わせた層状複合体を作製することで、光反応で分子の吸脱着を制御できる新しい分子吸着層状複合材料を開発することが目的であり、平成29年度では、数種の層状複合体の作製とその層状構造および光機能の観測を計画した。現段階で従来のニオブ酸系に加えてチタン酸系、モンモリロナイト系の層状複合体を作製して光機能化に成功した。それらの微細構造のさらなる検討が必要ではあるものの、ほぼ計画通り研究を遂行できていることから、おおむね順調に進展していると考えられる。 無機ナノシートの合成では、ニオブ酸系とナノシート構造が大きく異なる系としてチタン酸を合成し、多フッ素化アルキルアゾベンゼン誘導体と複合化した。アゾベンゼンのインターカレーションは、従来のニオブ酸系を参考にして濃度やpH、温度などの適当なインターカレーション条件の探索し、層状複合体作製を達成した。特に、光反応で層間伸縮を可逆的に制御できる機能を発現する新たな層状複合体系を構築できたことが大きな理由の1つである。 一方、層間伸縮に伴う試料形態の顕微鏡観察については、モンモリロナイトの複合体において、顕微鏡観察範囲内での変化を予想していたが、その予想を大きく超えて巨視的な屈曲運動を示し、薄膜の形状変形を直接観測することに成功した。大きな試料スケールで構造変化を引き出せたということは、次年度の分子吸着特性の評価につながる非常に大きな成果である。また、この試料作製手法を従来の系やチタン酸系へも展開し、次年度の分子吸着特性評価へ向けて研究が進展していることから、研究全体としておおむね順調に進展していると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究の推進法策としては、無機ナノシートをチタンニオブ酸などへさらに展開しつつ、作製した層状複合体の分子吸着特性を評価する。X線回折測定を中心に、紫外・可視吸収スペクトル測定や熱分析、偏光分光測定などにより層状微細構造を明らかにし、その構造制御技術を確立すると共に、物理ガス吸着法などによって作製した層状複合体の分子吸着特性を測定する。層状複合体における分子の吸着構造などを解析しながら、層状微細構造における微小空間と吸着分子との関係を明らかにする。特に、光反応前後の層状微細構造と吸着特性の関係に焦点を絞り、反応によってどのように微細構造が変化したか、またそれと吸着特性に相関があるかなどを明らかにする。 また最適化された層状複合体について、実際に分子の吸脱着が光反応によって制御可能かどうかを検討し、吸着量や可逆性、繰り返し性などについて定量的に評価して、層状複合体によって分子吸着層状複合材料の開発が可能かどうかを明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
無機ナノシートとアゾベンゼンの複合化において、アゾベンゼンのインターカレーション条件探索に多くの時間を要したため、層状複合体の微細構造解析や他の無機ナノシート(チタンニオブ酸)への研究展開が若干遅れている状況である。このため、その微細構造の解析および複合体作製に必要な試薬、ガラス器具類等の購入のための研究費を次年度に使用する状況が生じた。 複合体作製時に必要な試薬やガラス器具に加えて、AFMカンチレバーやX線回折測定と光反応を組み合わせるための光学部品類の購入のために使用する予定である。
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