従来の光応答分子では、励起光として紫外光を用いるために特に生体系への応用を考える上で大きな問題となり、理想的には700 nm以降の可視光や近赤外光を用いることが求められている。可視光照射により色が消失する逆フォトクロミック分子は、始状態が着色状態であり光照射により無色へ変化するため、可視光応答スイッチ分子として注目されている。さらに、従来型の高速フォトクロミック分子では達成が困難であった、超解像顕微鏡への応用が容易なOFF-ON型蛍光スイッチが期待できる。 本研究では、一分子内に正フォトクロミズムを示すユニット(PIC)と逆フォトクロミズムを示すユニット(BN-PIC)を組み込んだバイフォトクロミック分子を開発し、インコヒーレント連続(CW)光を用いて、弱光下では逆フォトクロミズムによる消色反応が支配的に起こり、ある閾値以上の光強度下でのみ正フォトクロミズムが優先的に進行する可視光非線形応答型フォトクロミック分子を開発し、この特異的な励起光強度依存性について速度論解析を行い、励起光強度依存性が現れる理由を詳細に説明することに成功した。このような励起光強度選択的なフォトクロミズムは、背景光に影響されない高選択的光スイッチ分子の実現という観点からも重要である。 さらに、逆フォトクロミック分子(BN-ImD)に蛍光色素としてナフタルイミドを導入した分子を合成し、可視光照射により蛍光能がONになるTurn-ON型蛍光スイッチ分子を開発した。安定体である着色状態ではナフタルイミドから着色体へのエネルギー移動により効率的に蛍光が消光されるのに対し、可視光照射により消色体へと異性化させると蛍光量子収率が0.75にまで達した。また、この蛍光スイッチは単一波長の可視光照射によっても可逆的に誘起可能であることを示した。
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