研究実績の概要 |
嵩高い置換基を持つルイス酸とルイス塩基を組み合わせたフラストレイティドルイスペア(FLP)は、水素等の小分子の不均等開裂を可能とし、触媒としての応用も進んでいる。このFLPの概念を遷移金属錯体に取り入れ、遷移金属特有の挿入反応と組み合わせた触媒反応などが期待されているが、挿入活性の高い後期遷移金属はルイス酸性が低いため、これをルイス酸としたFLPの報告例は存在しなかった。そこで本研究では、中心金属のルイス酸性の向上が期待できるPNPピンサー型ホスファアルケン配位子(ビスホスファエテニルピリジン・BPEP)を有する配位不飽和なカチオン性錯体を合成し、これを用いたFLPの構築と触媒反応への応用を目的とした。 初年度は、剛直な縮環構造を持ったEind 1,1,3,3,5,5,7,7-octaethyl-1,2,3,5,6,7-hexahydro-s-indacen-4-yl)基を立体保護基とするPNPピンサー型ホスファアルケン配位子Eind2-BPEPを有するカチオン性銅(I)錯体[Cu(Eind2-BPEP)]PF6を合成し、Mes*基を立体保護基とする既知の類縁体[Cu(Mes*2-BPEP)]PF6との比較を行った。その結果、配位平衡を利用した立体障害の評価とGutmann-Beckett法によるルイス酸性の評価から、Eind2-BPEP錯体1はMes*2-BPEP錯体2と比較してより嵩高く、より高いルイス酸性を示すことを明らかにした。さらに、これらの銅(I)錯体を触媒としたCO2のヒドロシリル化反応を検討し、常温・常圧という温和な条件において高効率で反応が進行することを見出した。
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