研究実績の概要 |
嵩高い置換基を持つルイス酸とルイス塩基を組み合わせたフラストレイティドルイスペア(FLP)は、水素等の小分子の不均等開裂を可能とし、触媒としての応用も進んでいる。このFLPの概念を遷移金属錯体に取り入れ、遷移金属特有の挿入反応と組み合わせた触媒反応などが期待されているが、挿入活性の高い後期遷移金属はルイス酸性が低いため、これをルイス酸としたFLPの報告例は存在しなかった。そこで本研究では、中心金属のルイス酸性の向上が期待できるPNPピンサー型ホスファアルケン配位子(ビスホスファエテニルピリジン・BPEP)を有する配位不飽和なカチオン性錯体を合成し、これを用いたFLPの構築と触媒反応への応用を目的とした。 2019年度は、初年度に合成に成功した剛直な縮環構造を持ったEind(1,1,3,3,5,5,7,7-octaethyl-1,2,3,5,6,7-hexahydro-s-indacen-4-yl)基を立体保護基とするPNPピンサー型ホスファアルケン配位子Eind2-BPEPを有するカチオン性銅(I)錯体[Cu(Eind2-BPEP)]PF6が、嵩高いアミンであるヒューニッヒ塩基と組み合わせることで、そのかさ高さとルイス酸性の高さを反映してFLPとして機能し、水素分子のH-H結合及びフェニルアセチレンのC-H結合を活性化することを見いだした。さらに、このカチオン性銅(I)錯体がCO2水素化の触媒として機能することも明らかにした。 銅のような後期遷移金属を用いたFLPの構築は初めての例であり、電子求引性の高いホスファアルケン配位子と嵩高いEind基を組み合わせたEind2-BPEP配位子の特性を生かした興味深い反応系であると考えている。
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