前年度において,食品表面に付着している残留農薬のマッピング分析を実現するために,質量分析用の新しい小型のサンプリングセルを開発・設計し,試作機を作成した。 今年度は,アルゴンガスによる誘電体バリア放電で農薬試料の脱離を行い,脱離した農薬試料中の元素をマイクロホローカソードプラズマによって励起させて,発光分光分析を行う装置の試作および分析性能評価を行った。マイクロホローカソードプラズマの生成には,ピーク値で約100 kWの高出力パルス電源を使用することで,一般的な誘導結合プラズマよりも10倍程度高密度なプラズマを実現して分析の高感度化を図った。 試料脱離に用いる誘電体バリア放電の放電条件の最適化を行った後,本装置を用いてスライドガラスにNa溶液を塗布して乾燥させたものを分析した結果,Naの発光スペクトルを観測することに成功し,本装置が固体表面付着物の脱離と発光分光分析に適用可能であるということを示した。質量分析ではなく,農薬に含まれるSやPなどの元素の発光分析を行うことで,さらなる分析の簡便化と分析装置全体の小型化を達成することができる。今後は,農薬試料の分析を通じて装置の最適化・小型化を行い,試料分子の質量および試料に含まれる元素の発光の同時分析を行う,新たな残留農薬マッピング分析技術の開発を進める。
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