福島原発の廃炉現場における核燃料デブリのその場分析技術として、ファイバー伝送レーザー誘起ブレークダウン分光法(LIBS)が注目されている。これまでに、ロングパルスレーザー(100 ns)を用いると、同位体分析に有効な分子の発光が増大することを見出している。本研究では、ロングパルスを用いた分子発光分光法の確立を目的として、アブレーション放出種の酸化過程を調べた。 本年度は、照射エネルギーを変化させてジルコニウム板の発光スペクトルを測定した。従来のノーマルパルス(6 ns)では、エネルギーを変化させてもZrO分子の発光強度に大きな変化はなかった。ロングパルスの場合、エネルギーの増加に伴いZrO分子の発光が増大した。ロングパルスの照射エネルギーを増加させることで、さらなる信号強度の増大が期待される。プラズマの発光領域を調べると、ロングパルスの場合、エネルギーによらず試料表面から離れた位置で強い発光が観測された。立ち上がりが緩やかなロングパルスでは、初期のプラズマの閉じ込め効果が小さいため、エネルギーを高くしてもプラズマが上昇し、周囲の気体の流入によりアブレーション放出種の酸化が促進されると考えられる。 また、水中に浸漬したアルミニウム板にロングパルスを照射すると、大気中でノーマルパルスを照射した場合と同程度の強度のAlO分子の発光が観測された。この結果は、デブリを水中に閉じ込めた状態でも分子の発光を検出できることを示唆している。 昨年度から開始した蒸発乾固法による液体の微量分析について、金属援用エッチングで作製したポーラスシリコン基板に着目した。金、銀、白金粒子により形成されるポーラス構造の違いを検討するとともに、ポーラスシリコン基板を用いることで蒸発乾固物のLIBS信号が著しく増大することを見出した。本手法は、廃炉現場における汚染水のその場分析技術として応用が期待される。
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