研究課題
本年度は、鉄硫黄クラスター生合成系酵素のうち、鉄硫黄クラスターの材料となる無機硫黄を、硫黄含有アミノ酸であるシステインから取り出す酵素系の構造、機能解析を行った。枯草菌由来の鉄硫黄クラスター生合成系であるSUF-likeマシナリー(SufCDSUB)は、システインから硫黄を取り出すシステイン脱硫酵素SufSに加え、ユニークな亜鉛含有タンパク質であるSufUを有しており、SufS-SufUが複合体を形成したのち、基質システインからの硫黄取り出し反応を触媒することが鉄硫黄クラスターの生合成に重要である。その詳細な分子メカニズムの解明のため、SufS-SufU酵素複合体のX線結晶構造解析を行った。その結果、SufS-SufU複合体は、SufS二量体を中心とし、その両端にSufUがそれぞれ1分子ずつ結合した、(SufS)2-(SufU)2複合体の状態であることが明らかとなった。SufUの亜鉛結合部位が、SufSの活性中心であるピリドキサール-5'-リン酸(PLP)の方に向いた状態であり、さらに興味深いことに、SufUの亜鉛の配位子の1つである41番目のシステイン残基(Cys41)がSufS-SufU複合化によって亜鉛から外れていることがわかった。代わりに、SufSの分子表面にある保存された342番目のヒスチジン(His342)がSufUの亜鉛に結合しており、亜鉛の配位子のスイッチングが起きていることがわかった。この時、Cys41のチオール基がSufSから無機硫黄を受け取る状態であることが推測されたため、実際に硫黄を受け取る状態である酵素反応中間体のX線結晶構造解析も行った結果、基質のシステインがSufSのPLP上でアラニンに変換され、取り出された無機硫黄がSufSの361番目のシステイン(Cys361)を経由して、SufUのCys41へと渡ることが証明された。本研究内容は、化学分野で一流の国際誌であるJ. Am. Chem. Soc.に掲載された。
1: 当初の計画以上に進展している
本年度の研究内容は、化学分野で一流の国際誌であるJ. Am. Chem. Soc.に掲載され、また日本最大の化学のポータルサイトであるChem-Stationに記事が紹介された。また本年度、招待講演を含め幾つかの学会で発表する機会をすでに得ており、本内容は国内外から現在注目を集めている。
硫黄転移反応のユニークな分子メカニズムの解析に当初の予想を上回る進度で成功したため、今後は鉄や、鉄と硫黄がどのようにして、鉄硫黄クラスターまで生合成されるかの分子メカニズムに迫る。それらの反応に関わると予想される生合成酵素を単離し、タンパク質X線結晶構造解析により反応過程を捉える。また分光学的手法による反応中間体の構造、電子状態の評価を行う系の確立を目指す。具体的には、結晶の顕微分光の光学系を、放射光施設の研究者と共同でセットアップするとともに、溶液系でも、鉄硫黄クラスター生合成反応中間体由来のユニークな電子状態をESRやRaman分光などで補足する。
初年度の研究計画が、当初の計画より効率良く進行し、当初必要としていた予算よりも少ない予算で、予定された分の研究を完了することができた。そのため、次年度使用額として残った予算を、翌年度分の予算に合わせて利用し、予定より多く使用できる金額分を用いて、翌年度分とさらに翌々年度分の実験計画をさらに進捗させる予定である。
すべて 2018 2017 その他
すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (5件) (うち招待講演 1件) 備考 (1件)
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http://www.saitama-u.ac.jp/topics_archives/2017-1215-0953-9.html