外力を必要とせずに自発的に水中の環境汚染物質を回収しながら走行する油滴の設計に向けた基礎的検討を行った。この油滴は,水中の溶質を内部に取り込む際に走るエネルギーが生み出されることから,水中の汚染物質を自発的に回収する環境浄化システムに応用することができると考えている。 本研究では,これまでに明らかになった運動機構をもとに系の最適化を行ない,難分解性界面活性剤の濃縮回収システムを構築することを目標とした。これまで申請者は,芳香族を中心に多くの種類の油滴溶媒を用いて,自発走行現象の運動性と溶媒物性との関係について検討してきたが,ニトロベンゼンを超える運動性を示す油滴溶媒は見出せていなかった。今回の研究により,基板への濡れ性や比重,粘性など,自発運動に影響する油滴溶媒の物性が明らかになってきた。また,油相溶媒の水相への相溶性は界面張力の不均一性を生み出すことから,その影響が示唆されてきた。ニトロベンゼンの水相への溶解の寄与について検討を行った結果,油滴の自発的走行現象に対して,油相溶媒の溶出による界面張力への影響よりも,解離状態の油滴溶質が油滴内に存在することによる脱ぬれ現象への影響が大きいことが示された。このことから,高い極性が運動性に影響を与える理由として、界面活性剤と会合反応する解離状態のイオンの油水分配との関係が示唆された。比重が水よりも小さい油相溶媒として,環境負荷の小さい酢酸エステルを選択した。炭素鎖が短く極性が高いエステルほど運動性は高く,ニトロベンゼンの運動性を支持する結果となった。しかし,油滴からの溶質の溶出が大きく,これが運動を阻害する因子となることもわかってきた。正に帯電したガラス基板を用いた,陰イオン化メイン活性剤の濃縮回収実験も行った。運動性は通常のガラス基板より低いが同様の走行現象が確認され,溶質の分子サイズが大きいほど運動は促進された。
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