研究課題/領域番号 |
17K14524
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研究機関 | 分子科学研究所 |
研究代表者 |
浜坂 剛 分子科学研究所, 生命・錯体分子科学研究領域, 助教 (50570230)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | パラジウム / ピンサー錯体 / 痕跡量触媒 / クロスカップリング反応 |
研究実績の概要 |
パラジウムNNC-ピンサー型錯体が溝呂木ーヘック反応を超高効率で触媒することを見出した。様々なヨウ化及び臭化アレンと末端アルキンとの反応がppm量以下のパラジウムNNC-ピンサー型錯体存在下効果的に進行し、標的生成物を高い収率で与えた。特に、一般的に反応性が低下すると考えれるヘテロ原子を含有する反応基質にも適用可能であり、本触媒システムは高い基質一般性を示している。また、反応性の低い塩化アレンを基質として用いた場合も、100ppmの触媒量で低収率ながら反応が進行した。ヨウ化ベンゼンとアクリル酸ブチルを基質として用いた場合、触媒回転数は8億7千万回に達した。この時の触媒回転頻度は一秒間に3360回であった。また、日焼け防止剤として用いられるオクティノクセイトの10gスケール合成に本触媒システムを適用したところ、触媒量1ppmで本反応が効果的に進行し、標的化合物が94%単離収率(10.86g)で得られた。この際、単離後の生成物中に含まれるパラジウムの量は1重量ppm未満であった。 本触媒システムにおける触媒活性種の詳細を明らかとするために、反応速度解析、透過型電子顕微鏡による観察、被毒実験を実施した。反応速度解析からは、反応初期に誘導期が存在し、錯体そのものが触媒活性種ではなく、反応系中で用いた錯体が変化し、真の触媒活性種が形成していると示唆された。反応混合物を透過型電子顕微鏡で観察したところ、パラジウムナノ粒子が系中で形成していることが明らかとなった。水銀を反応混合物中へと添加することで、反応が著しく阻害された。このことは系中でパラジウム0価種が生成していることを示している。また、クラブトリーテストを実施したところ、反応の阻害が観察された。以上の結果から、配位子を持たない単一のパラジウム種が触媒活性種として機能していることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題の目的は痕跡触媒量の遷移金属錯体を用いた炭素-炭素結合形成反応の開発である。平成29年度は、パラジウムNNC-ピンサー型錯体を各種反応へと適用することで、超高効率反応を目指し研究を実施した。その結果、溝呂木ーヘック反応がppm量以下の触媒量で効果的に進行することを見出している。また、触媒活性種の知見をいくつかの実験により得ている。 以上のように、本研究課題の目的を達成するための研究は着実に進展している。したがって、本研究課題はおおむね順調に進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
更なる反応適用範囲の拡大を目指し、反応のスクリーニングを行う。特に、これまで痕跡量触媒での反応実現例のない、檜山クロスカップリング反応をターゲットとしたい。 また、高性能固定化触媒の開発を目指し、NNC-ピンサー型錯体の固定化を実施する。固体担体として、ポリスチレン-ポリエチレングリコール共重合レジン(PS-PEG-NH2)を用いる。標的の固定化錯体は、PS-PEG-NH2と5位にカルボキシル基を導入したジフェニルフェナンスロリンと反応後、パラジウム塩を作用させることで合成する。調製した固定化触媒を、均一系触媒システムを検討する中で得られた知見を基に各種反応へと適用し、ppm以下のオーダーで反応を実現を目指す。また、触媒の再利用性について検討し、再利用可能なppm触媒システムを構築する。
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