• 研究課題をさがす
  • 研究者をさがす
  • KAKENの使い方
  1. 課題ページに戻る

2017 年度 実施状況報告書

ヒトiPS細胞由来の分化細胞を用いた次世代環境診断システムの開発

研究課題

研究課題/領域番号 17K14525
研究機関国立研究開発法人産業技術総合研究所

研究代表者

谷 英典  国立研究開発法人産業技術総合研究所, エネルギー・環境領域, 主任研究員 (10635329)

研究期間 (年度) 2017-04-01 – 2019-03-31
キーワードヒトiPS細胞 / ノンコーディングRNA / バイオマーカー
研究実績の概要

本研究では、ヒト人工多能性幹細胞(ヒトiPS細胞)、及び、タンパク質に翻訳されない長鎖ノンコーディングRNAに着目することで、化学物質等のヒトへの直接的影響評価を可能とする、次世代環境センシングシステムの開発を目的として研究を進めた。ヒトiPS細胞は、多くの細胞に分化できる分化万能性と、分裂増殖を経ても維持が可能な自己複製能を有する細胞であり、胚性幹細胞(ES細胞)の有する倫理的な問題をクリアしており、さらに元の細胞の性質・機能を維持しているという利点を有する。また、長鎖ノンコーディングRNAはタンパク質に翻訳されないRNAであり、細胞のストレス応答においてダイナミックな制御機構を担うことが近年報告され始めている。
まず我々は、フィーダー細胞を用いないヒトiPS細胞の安定的な培養法を確立した後、神経幹細胞に分化させ、本細胞にモデル環境ストレスとして、過酸化水素、塩化水銀、シクロヘキシミド、塩化亜鉛等を24時間暴露することで、暴露後RNA発現量が著しく増加する長鎖ノンコーディングRNAとして、4つの新規分子(TUG1、GAS5、FAM222-AS1、SNHG15)を同定した。本結果より、長鎖ノンコーディングRNAには、環境ストレス全般に応答するものと、特異的に応答するものが存在することを見出した。また、従来のバイオマーカーとしてストレス関連遺伝子等(mRNA)と比較した結果、長鎖ノンコーディングRNAの方が高感度かつ迅速に環境ストレスに応答することを見出した。以上より、ヒトiPS細胞において、長鎖ノンコーディングRNAが環境ストレスに対するサロゲート分子として有用であることが示された。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

本研究室において、京都大学iPS細胞研究所(CiRA)のプロトコールに従い、京都大学の山中伸弥教授らが樹立したヒトiPS細胞株(201B7)の培養を行った。フィーダー細胞としてマウス細胞株(SNL 76/7)を用いた。その後、WiCell Research Instituteのプロトコールに従い、フィーダー細胞を用いない培養法に切り替え、神経幹細胞に分化させることに成功した。続いて、モデル環境ストレスとして、様々な化学物質を暴露することで、複数のノンコーディングRNAの存在量が著しく増加することを見出した。本結果は、今後の予定である、化学物質により発現量が増加するノンコーディングRNAの応答メカニズム及び機能解明につながる重要な知見である。

今後の研究の推進方策

まず、これまでの知見により、ヒトiPS細胞から分化させた神経幹細胞において、化学物質暴露により発現量が著しく増加した長鎖ノンコーディングRNAについて、その応答メカニズムを解明するために、RNAの生成及び分解速度を求める。
次に、フィーダー細胞を用いないヒトiPS細胞を肝細胞に分化させ、本細胞にモデル環境ストレスとして、過酸化水素、塩化水銀、エトポシドを24時間暴露することで、暴露後RNA発現量が著しく増加する長鎖ノンコーディングRNAを同定する。並行して、ヒトiPS細胞の肝細胞への分化が困難である場合に備え、ヒト肝がん細胞(HepG2)で同様の検討を実施する。化学物質暴露により発現量が著しく増加した長鎖ノンコーディングRNAについて、その応答メカニズムを解明するために、RNAの生成及び分解速度を求める。これまでの我々の別の知見より、化学物質暴露によりRNAの分解速度が遅くなることが予想されるため、RNAi法を用いて主要なRNA分解酵素をノックダウンし、長鎖ノンコーディングRNAの分解に関与するRNA分解酵素を特定する。続いて、同定した長鎖ノンコーディングRNAに対して、RNA-Fluorescence in situ hubridization(RNA-FISH)法を行い、細胞内での局在を調べる。さらに、長鎖ノンコーディングRNAに結合するタンパク質を明らかにするために、MS2 Tag等のアフィニティータグ配列を連結した長鎖ノンコーディングRNAを細胞内で発現させ、RNA-タンパク質複合体の状態にした後、アフィニティータグ配列を利用したアフィニティー精製により細胞抽出液からRNA結合タンパク質を精製し、RNAと同時に精製されてくるタンパク質をマススペクトロメトリー法で同定する。また、これらの細胞に対して、蛍光顕微鏡観察を行い、細胞形態の変化、細胞核の肥大化、アポトーシス関連タンパク質の検出等を行うことで、多角的に細胞の変化を調べる。

  • 研究成果

    (10件)

すべて 2017 その他

すべて 雑誌論文 (5件) (うち査読あり 5件、 オープンアクセス 3件) 学会発表 (4件) (うち国際学会 1件、 招待講演 2件) 備考 (1件)

  • [雑誌論文] Rapid monitoring of RNA degradation activity in vivo for mammalian cells.2017

    • 著者名/発表者名
      Tani H, Sato H, Torimura M.
    • 雑誌名

      Journal of Bioscience and Bioengineering

      巻: 123 ページ: 523-527

    • DOI

      10.1016/j.jbiosc.2016.11.010.

    • 査読あり
  • [雑誌論文] Four Aromatic Sulfates with an Inhibitory Effect against HCV NS3 Helicase from the Crinoid Alloeocomatella polycladia.2017

    • 著者名/発表者名
      Hermawan I, Furuta A, Higashi M, Fujita Y, Akimitsu N, Yamashita A, Moriishi K, Tsuneda S, Tani H, Nakakoshi M, Tsubuki M, Sekiguchi Y, Noda N, Tanaka J.
    • 雑誌名

      Marine Drugs

      巻: 15 ページ: E117

    • DOI

      10.1016/j.jbiosc.2016.11.010.

    • 査読あり
  • [雑誌論文] Short-lived long non-coding RNAs as surrogate indicators for chemical exposure and LINC00152 and MALAT1 modulate their neighboring genes.2017

    • 著者名/発表者名
      Tani H, Okuda S, Nakamura K, Aoki M, Umemura T.
    • 雑誌名

      PLoS One

      巻: 12 ページ: e0181628

    • DOI

      10.1371/journal.pone.0181628.

    • 査読あり / オープンアクセス
  • [雑誌論文] Identification of RNA biomarkers for chemical safety screening in mouse embryonic stem cells using RNA deep sequencing analysis.2017

    • 著者名/発表者名
      Tani H, Takeshita J, Aoki H, Nakamura K, Abe R, Toyoda A, Endo Y, Miyamoto S, Gamo M, Sato H, Torimura M.
    • 雑誌名

      PLoS One

      巻: 12 ページ: e0182032

    • DOI

      10.1371/journal.pone.0182032.

    • 査読あり / オープンアクセス
  • [雑誌論文] Effect of methyl p-hydroxybenzoate on the culture of mammalian cell.2017

    • 著者名/発表者名
      Tani H, Takeshita J, Aoki H, Nakamura K, Abe R, Toyoda A, Endo Y, Miyamoto S, Gamo M, Torimura M, Sato H.
    • 雑誌名

      Drug Discoveries & Therapeutics

      巻: 11 ページ: 276-280

    • DOI

      10.5582/ddt.2017.01054.

    • 査読あり / オープンアクセス
  • [学会発表] ノンコーディングRNAに着目した化学物質の生体影響評価技術の開発2017

    • 著者名/発表者名
      谷 英典
    • 学会等名
      京都大学iPS細胞研究所セミナー
    • 招待講演
  • [学会発表] 長鎖ノンコーディングRNAに関するRNA分解からのアプローチ2017

    • 著者名/発表者名
      谷 英典
    • 学会等名
      第1回長鎖非コードRNA勉強会
    • 招待講演
  • [学会発表] BRIC-seq: Genome-wide analysis of RNA turnover.2017

    • 著者名/発表者名
      Tani H.
    • 学会等名
      Eukaryotic RNA turnover
    • 国際学会
  • [学会発表] LINC00152及びMALAT1は近傍の遺伝子発現を制御する2017

    • 著者名/発表者名
      谷 英典、奥田 彩也夏、中村 薫、青木 元秀、梅村 知也
    • 学会等名
      第19回 日本RNA学会年会
  • [備考] Hidenori TANI's Homepage

    • URL

      https://staff.aist.go.jp/h.tani/

URL: 

公開日: 2018-12-17  

サービス概要 検索マニュアル よくある質問 お知らせ 利用規程 科研費による研究の帰属

Powered by NII kakenhi