遷移双極子モーメントや振電相互作用、スピン軌道相互作用は輻射遷移(蛍光、りん光)ならびに無輻射遷移(内部転換、項間交差、電子移動)の速度と関係するため、その基礎的な理解は発光材料の発光効率や電荷輸送材料の電荷輸送特性、ホスト材料の励起子輸送特性を理解する上で重要である。前年度までの研究によって、複数分子系における遷移双極子モーメントならびに振電相互作用定数を計算し、その起源を可視化する手法を開発した。これによって、遷移双極子モーメントおよび振電相互作用における構造活性相関を視覚化して統一的に理解できるようになった。 今年度は、この手法を分子内および分子間で生じるスピン軌道相互作用を取り扱えるように拡張した。スピン軌道相互作用の2電子演算子部分は、有効核電荷を導入することで1電子演算子に置き換えられる。この場合、スピン軌道相互作用の起源は、3次元空間における位置座標の関数ρとVの積ρ×Vとして表現できる。ρには電子波動関数の情報が、Vには原子核が作るクーロンポテンシャルの情報が含まれる。ρとVを3次元の立体画像として視覚化すれば、スピン軌道相互作用の起源を直感的に理解できるようになる。スピン軌道相互作用を示す分子としてよく知られているベンゾフェノン、2-ヨードナフタレンおよび熱活性型遅延蛍光を示す分子に対して本手法を適用し、スピン軌道相互作用の起源と電子状態の関係を明らかにした。 本研究によって、遷移双極子モーメント、振電相互作用およびスピン軌道相互作用の起源はすべて3次元の立体画像として視覚化して理解できるようになった。このことは、分子が示す輻射・無輻射遷移における構造活性相関が、複雑な数式を使わずに直感的に理解できるようになったことを意味する。分子の諸性質における構造活性相関を直感的に理解し、分子設計に活用するための手段として、本手法は有用であると考えている。
|