研究課題/領域番号 |
17K14535
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研究機関 | 山形大学 |
研究代表者 |
西辻 祥太郎 山形大学, 大学院有機材料システム研究科, 助教 (00564858)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 非晶性高分子 / 破壊 / 密度揺らぎ / 時分割小角X線散乱 |
研究実績の概要 |
ポリカーボネート(PC)は、ガラス転移温度以下で熱処理しても破壊強度が大きく低下する熱老化と呼ばれる現象を示すが、そのメカニズムは未解明である。本研究では、熱処理を行ったPCにおいて密度揺らぎが変形の進行と共にどう変化するかを、時分割小角X線散乱によりその場観察し、熱老化のメカニズムを明らかにすることを目的とした。具体的には、熱処理されたPCを一定荷重下でひずみを測定しながら、時分割小角X線散乱測定を行うことにより、密度揺らぎの変化を評価する。熱処理条件(温度と時間)とPCの分子量を系統的に変化させ、熱処理が変形と共に変化するPCの密度揺らぎの相関長と大きさにどのような影響を与えるのかを調べる。また密度揺らぎの変化に対する分子量依存性についても検討する。これにより、PCの熱老化のメカニズムを明らかにすることを目指した。その結果、本年は以下のことを達成した。 (1)これまで本申請者が所有する一定荷重を印可できる装置にレーザー変位計を導入し、一定荷重下で変位を測定しながら、時分割小角X線散乱測定を行うことを可能にした。このことにより、ひずみと構造の関係性を明らかにすることができるようになった。 (2)熱処理条件(温度と時間)とPCの分子量を系統的に変化させた試料に対して、様々な荷重下で変化していくひずみを測定した。その結果、それぞれの試料の破壊までの時間を把握することができた。 (3)熱処理前のPCに対して、小角X線散乱測定を行った。すると等方的な散乱像が現れた。また一定荷重下でひずみを測定しながら時分割小角X線散乱測定を行った。その結果、ひずみが増加するとともに、荷重印加前とは異なる領域に異方的な散乱像が現れた。このことにより、PCは二つのオーダーの密度揺らぎを持っているということがわかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、ポリカーボネートの密度揺らぎが、一定荷重下でひずみが増加するにつれどう変化するかを、時分割小角X線散乱によりその場観察し、明らかにすることが目的である。また熱処理したポリカーボネートは成形品とどう違うのかを調べ、熱老化のメカニズムを明らかにすることを目指している。 平成29年度の研究実施計画は1.ひずみ測定装置の導入、2.熱処理条件および荷重条件の決定、3.時分割小角X線散乱法による一定荷重下での相関長と密度揺らぎの変化であった。 現在までのところ、(1)一定荷重下でひずみを測定しながら時分割小角X線散乱測定を行うことを可能とし、(2)熱処理条件を変化させた試料の破壊までの時間を把握し、(3)一定荷重下での時分割小角X線散乱測定により、ひずみが増加するにつれ異方的な散乱像が現れることを見出しており、研究は順調に進捗している。
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今後の研究の推進方策 |
平成30年度の研究実施計画は、熱処理後のポリカーボネートに対して一定荷重下で時分割小角X線散乱測定を行い、ひずみが増加するにつれ密度揺らぎがどう変化するのかを調べることであった。当初の予定通り、熱処理条件を系統的に変化させ、熱処理に対する密度揺らぎの変化について調べ、熱老化のメカニズム解明を目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
(理由)多少残額が生じたが、ほとんど計画通りに進んでいる。 (使用計画)これまでの研究で熱処理前のポリカーボネートの時分割小角X線散乱測定を行った。次年度は熱処理後のポリカーボネートの実験を予定している。また様々な分子量のポリカーボネートを用意する予定であるため、多くの試料が必要となる。それらの購入費やSPring-8で実験するための旅費として使用する予定である。
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