代表的な非晶性高分子のひとつであるポリカーボネート(PC)は耐熱性、延性、耐衝撃性に優れた材料である。このPCはガラス転移温度(Tg=150℃)以下である120℃で熱処理を行うと、著しく衝撃値が低下する。熱老化と呼ばれるこの現象に関する研究は様々行われているが、未だにメカニズムは明らかにされていない。本研究では、PCの密度揺らぎに着目した。具体的には熱処理したPCに対して一定荷重下で時分割小角X線散乱によりその場観察を行い、密度揺らぎの相関長や振幅がひずみ増加とともにどのように変化していくのかについて調べた。その結果、本年は以下のことを達成した。 (1)前年度にPCは二つのオーダーの密度揺らぎを持っていることがわかった。それらを定量的に評価するためにOrnstein-Zernike(OZ)式とDebye-Bueche(DB)式の和で散乱プロファイルのフィッティングを行った。その結果、理論式は散乱プロファイルを評価することができ、大きなオーダーの密度揺らぎはDBモード、小さなオーダーの密度揺らぎはOZモードであることがわかった。 (2)OZモードとDBモードでPCの密度揺らぎが表現できることがわかったので、時々刻々と変化していく散乱プロファイルすべてに対してOZ+DB式でフィッティングを行った。その結果、DBモードの密度ゆらぎに変化はほとんどなかったが、OZモードの密度揺らぎはひずみが増加するにつれ、密度揺らぎの相関長も振幅も大きくなっていくことがわかった。これは熱処理したPCも同様の傾向であった。 (3)熱処理したPCのOZモードの密度揺らぎは、熱処理を行っていないPCと同様に相関長も振幅も大きくなっていったが、その速度が熱処理を行っていないPCと比べ明らかに速いことがわかった。
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