研究課題/領域番号 |
17K14536
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
Li Xiang 東京大学, 物性研究所, 助教 (30759840)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | ゲル / ゾル・ゲル転移 / 物理ゲル / 高分子 / ゴム弾性 / DNA / 理想網目 |
研究実績の概要 |
高分子ゲルは溶媒を液体の状態で保持するが、ゲル自身は固体的な応答を示す不思議な材料である。物理ゲルはその中でも、ゾル・ゲル状態を可逆的に行き行きできる材料として知られているが、系統的な研究が難しい材料とされてきた。その原因は主に、物理ゲルの網目の不均一性、そして架橋反応の乱雑性にありました。本研究では、これらの問題を克服すべく、精密な二重螺旋を特異的に形成する2本鎖DNAを架橋点として用いることによって、DNAの二重螺旋構造だけを架橋点とする物理ゲルを世界で初めて創造することに成功した。 当該ゲルは2本鎖DNAの融解温度よりも10度程度高い温度において、ゾル・ゲル転移をした。これはゲル化反応についてのパーコレーション理論の予測と一致しており、物理ゲルのゾル・ゲル転移点に既存の理論を用いてある程度説明ができることを明らかにした。また、レオロジー測定や散乱測定で、当該ゲルは非常に再現性の良いゾル・ゲル転移を示し、DNAの二重螺旋構造の特異性を十分に生かした乖離・再結合が行われていることが示唆された。DNAの二重螺旋構造は現在人類が知りうる物理結合の中で最も精密なものであり、この特徴がよく活かされた結果だと考えられる。また、当該ゲルは室温では弾性率の周波数依存性がほぼなく、理想的なゴム弾性体であることが判明した。この時に得られた弾性率はゴム弾性理論のファントムモデルから予測される理論弾性率とほぼ同じ値を示した。この結果から、物理ゲルに対してもゴム弾性論を適応できることが明示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の課題の一つに、現時点でDNAが非常に高価であることが挙げられる。幸いにも、申請者の所属研究室は今までの科研費の支援によって、すでに十分な実験装置を揃えており、本課題で得られる科研費をほぼ全てDNAの購入に当てることができているため、十分な試行錯誤が可能となった。また、PEG/DNAのconjugate作製にPEG/DNAのconjugateに精通している東京大学宮田研究室の内藤博士の協力が入ることによって、高効率のconjugate回収が可能となったことも研究を順調に進められる要因である。
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今後の研究の推進方策 |
計画通りに、今後は作製したゲルの力学特性の評価や構造評価していく。そのためには、まずはPEG/DNA conjugateを効率よく作製するスキームを確立することが必須である。内藤博士とさらに協力を深め、より効率の良い合成スキームを確立する。得られたconjugateを元に、当研究室内にある引っ張り試験機を用いてヤング率、レオメーターを用いて貯蓄弾性率や損失弾性率の測定を行っていく。合わせて、ミクロスケールの構造評価やダイナミックスの評価を光散乱法をベースに行いながら、よりゲルの構造を反映しているナノスケールの評価を国内・海外の中性子実験施設を利用して、小角中性子散乱を用いて明らかにしていく。
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