高分子ゲルは溶媒を液体の状態で保持するが、ゲル自身は固体的な応答を示す不思議な材料である。物理ゲルはその中でも、ゾル・ゲル状態を可逆的に行き行きできる材料として知られているが、系統的な研究が難しい材料とされてきた。その原因は主に、物理ゲルの網目の不均一性、そして架橋反応の乱雑性にあった。本研究では、これらの問題を克服すべく、精密な二重螺旋を特異的に形成する2本鎖DNAを架橋点として用いることによって、DNAの二重螺旋構造だけを架橋点とする物理ゲルを世界で初めて創造することに成功した。当該ゲル内でのDNAの二重螺旋構造の融解温度は理論値とほぼ一致しており、ゲル網目の形成はDNAの解離挙動にほぼ影響を与えないことがわかった。また、レオロジー測定や散乱測定からゲルの網目やその力学物性にヒステリシスがないことが確認できた。小角中性子散乱実験(SANS)により、ゾルとゲルの散乱プロファイルに違いがほぼ見られないことから、極めて均一な網目構造が形成されたことが推測される。我々は散乱プロファイルに対して乱雑移送近似を仮定したモデルを用いて再現し、ポリマー間の相互作用パラメーターを評価することに成功した。得られた高分子と溶媒の相互作用の値はこれまで知られた値と良い一致を示した。また、粘弾性特性は粘弾性液体を記述するシンプルなMaxwell modelによって再現できることも明らかになった。当該ゲルの構造や力学物性はほぼ理論予測と一致することから、理想的な物理ゲルを構築することに成功したと言える。
|