研究課題/領域番号 |
17K14538
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研究機関 | 神奈川大学 |
研究代表者 |
片岡 利介 神奈川大学, 工学部, 特別助教 (20514425)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 高分子 / プロトン交換膜 / 球晶 / 電子顕微鏡 / プロトン伝導 / 燃料電池 |
研究実績の概要 |
結晶性のpolyethylene (PE)と非晶polystyrene (PSt)ネットワークからなる二重網目構造を持つ膜の作製法を検討し、その後PStをスルホン化することで直接メタノール型燃料電池として適用可能なプロトン交換膜を得た。偏光顕微鏡や走査電子顕微鏡により膜の構造を観察し、またプロトン伝導度とメタノール透過率を測定した。得られた結果をもとに作製条件と膜の構造・物性との関係について考察した。 PEとスルホン化PStからなるプロトン交換膜は、PE分率が増加するほどプロトン伝導度が低くなったが、膨潤度とメタノール透過性は低減した。また一部の組成ではNafionよりも高いプロトンの選択的透過性を示した。膜の作製条件として、PEとモノマーであるstyrene (St)を混合した後に、PEを結晶化させてからStを重合して得られた膜の方が、Stを重合後、PEを結晶化させて得られた膜と比較して高い選択的透過性を示した。偏光顕微鏡観察の結果、前者ではPE球晶が膜全体を覆っていたが、後者では重合誘起相分離により組成が空間的に不均一であった。重合よりも結晶化を先に行うことでPStネットワークが球晶内フィブリル間に拘束され、最終的に得られた共連結網目が膜の膨潤を防ぎメタノール透過を抑制したと考えられる。本結果は使用する高分子材料や組成が同一であっても、作製条件によりプロトン交換膜の物性を制御できることを示しており、結晶性を有するプロトン交換膜を設計する上で重要な指針となる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
結晶性高分子と非晶ネットワークからなるプロトン交換膜では、膜の適切な作製条件により二重網目構造形成され、膜の性能を高める効果があることが実証されつつあることから、当初の構想どおり研究が進行している。膜の微細構造と物性をより詳細に調べることが次年度以降必要となる。
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今後の研究の推進方策 |
29年度において検討したPE/PStの組み合わせについて次年度以降も引き続き研究を進める。PE/PStの系はその扱いやすさから構造と物性との関係を調べる上でのモデル系としては適しているが、応用を想定した場合にはPEの低い融点(約100℃)が使用条件によっては問題となる可能性がある。そこでPEよりも融点が50℃以上高いisotactic polypropyleneを結晶成分として使用し、沸点の高い非晶モノマーを選択して二重網目構造を持つプロトン交換膜を作製する。プロトン伝導度とメタノール透過性の温度依存性を測定し、PE/PSt系と比較する。 また新たに、結晶性高分子の濃厚溶液を結晶化させた後、溶媒とモノマーを置換・重合することによる共連結網目の作製を模索する。エンジニアリングプラスチックと呼ばれるような実用性の高い結晶性高分子は、一般に難溶であるために別の高分子と組み合わせて均一な膜を得ることが非常に難しい。そこでこの問題を解決する手段として、結晶性高分子を高沸点の溶媒で溶解させた後に結晶化させ、その後溶媒を室温でstyreneに置換して重合することで、本来は全く相溶しない二種類の高分子ペアでも二重網目を構築できるのではないかと考えており、これが可能であればプロトン交換膜としてだけではなく、難溶性の結晶性高分子からなるコンポジット作製法の一つとしても有用であると思われる。残りの期間ではこの発想を実現するために、まずモデル系を選定し、上述のプロセスによるプロトン交換膜の作製が可能かについて検証する。
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次年度使用額が生じた理由 |
大学から割り当てられた教員研究費を、本研究に一部割り当てることができたために残額が発生した。次年度以降は研究活動費用が抑制されるため、前年度未使用額を学会参加費や論文投稿費などへと充てる計画である。
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