研究課題/領域番号 |
17K14550
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研究機関 | 工学院大学 |
研究代表者 |
徳永 健 工学院大学, 教育推進機構(公私立大学の部局等), 准教授 (30467873)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | スピントロニクス / 混合原子価 / 分子デバイス / 量子ドット / セルオートマトン / フェロセン / 静電ポテンシャル / スピンダイナミクス |
研究実績の概要 |
本研究では、電界効果トランジスタを用いた論理回路の代用となる可能性を秘めた、スピン型量子ドットセルオートマトン(スピンQCA)を用いた論理回路に注目する。スピンQCAの候補となる4核金属錯体を用いた論理回路について、「スピン演算時間」「スピン信号強度」を理論的に算出することにより、スピンQCA論理回路の次世代デバイスとしての可能性を探る。 平成30年度は、Feを含む4核金属錯体であるビフェロセニウムジボロン酸錯体(ダイマー2種類とエステル)を用いたQCA論理回路について、静的な観点から動作解析を行った。具体的には、錯体の周辺に点電荷で構成される3つの入力A, B, Cを配置し、全8パターンのA, B, Cの組み合わせについて、密度汎関数法による量子化学計算を行った。錯体中の電荷分布から錯体の状態を決定したところ、エステルのみが入力A, B, Cに対してAND回路・OR回路として動作することが分かった。 量子化学計算で得られた結果を簡便に予測する方法として、錯体を点電荷で置き換えた静電ポテンシャルモデル(ESPモデル)を考案し、系の静電ポテンシャルを計算した。ESPモデルで得られた基底状態は量子化学計算で得られた基底状態とよく一致した。このことから、ESPモデルはQCA論理回路の予測手段として有用であることが分かった。ESPモデルによる計算は量子化学計算と比較して短時間で実行できることから、シミュレーションの大幅な時間短縮が達成できた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
平成30年度は、Feを含む4核金属錯体であるビフェロセニウムジボロン酸錯体(ダイマー2種類とエステル)を用いたQCA論理回路について、静的な観点から動作解析を行った。具体的には、錯体の周辺に点電荷で構成される3つの入力A, B, Cを配置し、全8パターンのA, B, Cの組み合わせについて密度汎関数法による量子化学計算を行った。錯体中の電荷分布から錯体の状態を決定したところ、エステルのみが入力A, B, Cに対してAND回路・OR回路として動作することが分かった。 量子化学計算で得られた結果を簡便に予測する方法として、錯体を点電荷で置き換えた静電ポテンシャルモデル(ESPモデル)を考案し、系の静電ポテンシャルを計算した。ESPモデルで得られた基底状態は量子化学計算で得られた基底状態とよく一致した。このことから、ESPモデルはQCA論理回路の予測手段として有用であることが分かった。ESPモデルによる計算は量子化学計算と比較して短時間で実行できることから、シミュレーションの大幅な時間短縮が達成できた。 平成30年度はQCAの動作の静的な解析に留まり、当初の目的である動的な解析まで到達しなかった点で、研究の進捗状況は遅れている。しかしながら、当初の計画にはなかったEPSモデルを考案できた。デバイス動作の本質の理解とシミュレーション時間の短縮の2点で、今後の研究の遂行に大いに役立つと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
ビフェロセニウムジボロン酸錯体を用いたQCA論理回路について、量子化学計算を用いてQCAの動的な解析を行い、スピン演算時間とスピン信号強度の算出方法を確立する。我々が2009年に提案した方法を拡張することにより、容易に達成できると考えている。 並行して、平成30年度に確立したESPモデルを用いた静的な解析方法を動的な解析へと拡張し、簡易的なシミュレーションを行う。この結果を上述の量子化学計算の結果と比較することにより、ESPモデルの動的な動作予測に対する有効性を検証する。また、様々な系を想定してESPモデルのパラメータを変化させることにより、QCAの動的な動作を支配する因子を明らかにする。 次のステップとして、複数のセルを組み合わせたESPモデルを用いた簡易シミュレーションを実施する。このシミュレーション結果を参考にして、複数の分子を組み合わせた系において量子化学計算を実施し、スピンQCAの演算性能を明らかにする。
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