研究実績の概要 |
本研究では、電界効果トランジスタを用いた論理回路の代用となる可能性を秘めた、スピン型量子ドットセルオートマトン(スピンQCA)を用いた論理回路に注目した。Feを含む4核金属錯体であるビフェロセニウムジボロン酸錯体(ダイマー2種類とエステル)を用いたQCA論理回路の信号強度を理論的に算出することにより、スピンQCA論理回路の次世代デバイスとしての可能性を探った。 平成30年度は静的な観点から動作解析を行った。錯体の周辺に点電荷で構成される3つの入力A, B, Cを配置し、全8パターンのA, B, Cの0, 1の組み合わせについて、密度汎関数法による量子化学計算を行った結果、エステルのみが入力A, B, Cに対してAND回路・OR回路として動作することが分かった。ビフェロセニウムジボロン酸錯体の中からエステルを選別する手法として、錯体を点電荷で置き換えた静電ポテンシャルモデル(ESPモデル)を考案した。静電ポテンシャルは量子化学計算で得られた基底状態とよく一致した。このことから、ESPモデルは候補分子の簡便な選別手法として有用であることが分かった。これにより、シミュレーションの大幅な時間短縮が達成できた。平成31年度は、これらの錯体を用いたQCA論理回路について、その動作温度の観点から解析を行った。時間依存密度汎関数法を用いて励起状態のエネルギーを求めることにより、エステルが常温においても論理回路として動作する可能性があることを明らかにした。 以上のことから、1.ビフェロセニムジボロン酸エステルはスピンQCAとして動作する可能性があること、2.ESPモデルを用いた分子選別手法を確立したこと、の2点が大きな成果として得られた。
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