研究課題/領域番号 |
17K14553
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
山田 悟史 北海道大学, 工学研究院, 助教 (90730169)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | バイオメカニクス / 骨組織 / 強度 / 海綿骨 / 骨梁 |
研究実績の概要 |
骨粗鬆症は骨強度が低下し骨折リスクが増大する疾患であり、海綿骨が多く占める部位での骨折が多く、海綿骨強度を正確に評価することが重要となる。海綿骨強度の評価には、骨密度や骨梁配向の他に、骨梁自体の強度特性や組織の力学的特性を決定する分子・結晶レベルの構造特性が重要であると予想されるが、これらは未だ明らかでない。そこで本研究では、海綿骨強度予測モデル開発のため、(1)骨梁強度特性計測システムを開発し、骨梁強度特性を明らかにすること、(2)分子・結晶レベルの構造特性の計測方法を整理し、骨梁強度特性との対応を調査すること、(3)骨梁強度特性および分子・結晶レベルの構造特性が海綿骨強度に及ぼす影響を明らかにすることを目的とした。2カ年計画のうち初年度に当たる今年度は、以下の成果を得た。(1)棒状・板状等の骨梁形態によらず単一骨梁が計測可能な骨梁強度特性計測システムを開発した。骨梁形態を考慮した片持梁曲げ負荷が可能な機構とした。ウシ大腿骨の頸部および近位骨幹端の海綿骨より骨梁試験片を採取し、骨梁弾性率を計測した結果、採取部位による骨梁弾性率の有意差は認められなかった。一方、皮質骨と海綿骨組織の違いに着目し、皮質骨―海綿骨遷移領域の骨梁弾性率を計測した結果、海綿骨内部に比べて有意に低いことを示した。(2)X線回折計測により、骨梁試験片内のハイドロキシアパタイト結晶の配向性は、骨梁採取部位によらず、骨梁弾性率とは有意な相関を示さないことを確認した。(3)骨梁強度特性および分子・結晶レベルの構造特性が海綿骨強度に及ぼす影響を調査するため、部位による海綿骨強度の差異を確認した。(1)と同様のウシ大腿骨について、頸部および近位骨幹端より採取した海綿骨立方体試験片の圧縮試験を実施し、海綿骨圧縮強度および見かけの弾性率が有意に異なることを確認した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初研究計画では、初年度に当たる今年度は、(1)骨梁強度特性計測システムを開発し、骨梁強度特性を明らかにすること、および(2)分子・結晶レベルの構造特性の計測方法を整理することとしていた。研究実績の概要に記載の通り、(1)骨梁形態によらない単一骨梁の強度特性計測システムを開発した。また、海綿骨内の採取部位による骨梁弾性率の違いの有無を確認した。骨梁組織と皮質骨組織の違いに着目し、皮質骨との遷移領域の骨梁強度特性を調査した。(2)結晶レベルの構造特性について、骨梁採取部位によらず、骨梁弾性率と有意な相関を示さないことを示した。以上、概ね当初研究計画通りである。これらの研究成果の一部は、国際会議および国内学会において公表した。また、次年度実施予定であった(3)骨梁強度特性および分子・結晶レベルの構造特性が海綿骨強度に及ぼす影響の調査について、海綿骨試験片の力学試験方法を検討し、骨梁強度特性等との関係の調査に着手した。これらの成果は、次年度開催の国際会議にて公表予定である。以上より、概ね順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
2カ年計画のうち最終年度である次年度は、主に以下を実施予定である。(1)未だ明らかでない骨梁形態と骨梁強度特性の関係を明らかにする。これまでに、骨梁形態を示す海綿骨構造パラメータが海綿骨強度と有意な相関を示すことが報告されてきた。しかし、そのメカニズムは明らかでなかった。そこで、本研究課題において開発した骨梁強度特性計測システムを用いて、骨梁形態による骨梁弾性率の違いを検証する。(2)骨梁内の分子レベルの構造特性計測方法について整理し、分子・結晶レベルの構造特性と骨梁強度特性との対応を引き続き調査する。(3)力学試験に供する海綿骨試験片について、マイクロフォーカスX線CT撮影により骨梁構造を取得し、骨密度、骨梁形態、および骨梁構造特性を解析する。海綿骨強度が異なると予想される複数の部位から海綿骨試験片を採取し、骨梁構造特性、および(1)で明らかにする骨梁強度特性、(2)で明らかにする分子・結晶レベルの構造特性が、海綿骨強度に及ぼす影響を整理する。以上により、骨梁強度特性および分子・結晶レベルの構造特性が海綿骨強度に及ぼす影響を調査する。
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次年度使用額が生じた理由 |
(理由)当該年度では、骨梁強度特性計測システムを開発したが、一部構成要素に現有装置が代用できたため、物品費を節約することができた。 (使用計画)最終年度である次年度は、(1)骨梁強度特性の解明、(2)分子・結晶レベルの構造特性の計測方法の整理を継続して実施し、(3)骨梁強度特性および分子・結晶レベルの構造特性が海綿骨強度に及ぼす影響の調査に取り組む。そのため、骨梁強度特性計測システム開発における物品費を節約して発生した未使用額は、(2)骨梁内の分子・結晶レベルの構造特性計測にかかる物品費、および(1)・(3)における試験片作製・保存等に掛かる消耗品費に充当する計画である。
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