骨粗鬆症は骨強度が低下し骨折リスクが増大する疾患であり、海綿骨の多い部位での骨折が多い。海綿骨強度の評価には、骨密度や骨梁配向の他に、骨梁自体の強度特性、組織の力学的特性を決定する分子・結晶レベルの構造特性が重要であるが、これらは明らかでない。そこで本研究では、海綿骨強度予測モデルの開発のため、(1)骨梁強度特性、(2)分子・結晶レベルの構造特性、(3)これらの海綿骨強度への寄与を調査した。 補助事業期間全体を通じて、以下の成果を得た。(1)棒状・板状の骨梁形態によらず単一骨梁の計測が可能な骨梁強度特性計測システムを開発した。骨梁強度特性として、骨梁弾性率に着目した。ウシ大腿骨頸部および近位骨幹端の海綿骨より単一骨梁試験片を採取し骨梁弾性率を計測した結果、採取部位による有意な差および骨梁配向との有意な相関は認められなかった。また、棒状骨梁と板状骨梁の弾性率を比較した結果、明らかな差は認められなかった。(2)広角X線回折および小角X線散乱による単一骨梁試験片内の分子・結晶レベルの構造特性の計測方法および計測条件を整理した。棒状骨梁において、ハイドロキシアパタイト結晶c軸が骨梁長軸に配向する傾向が認められた。骨梁弾性率と配向度の有意な相関は認められなかった。また、単一骨梁試験片の小角X線散乱像を取得することができ、コラーゲン線維による3次回折ピークを観察することができた。(3)骨梁の大きさを考慮し、海綿骨の力学試験に適した試験片形状及び試験条件を検討した。単一骨梁試験片と同一部位より海綿骨立方体試験片を採取し圧縮試験を行った結果、海綿骨の見かけの弾性率や圧縮強度が有意に異なることを確認した。海綿骨の見かけの弾性率や圧縮強度が異なる一方、骨梁弾性率には明らかな差が認められなかったことから、骨梁弾性率に加えて骨梁形状の影響を含む骨梁剛性が海綿骨強度特性に寄与する可能性が示唆された。
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