研究課題/領域番号 |
17K14558
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
岡崎 三郎 九州大学, 水素材料先端科学研究センター, 学術研究員 (70780831)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 析出強化 / 疲労限度 / 水素脆化 / ファセット |
研究実績の概要 |
析出強化材の疲労強度が引張強度の向上に比例しない理由を明らかにするため,初年度は, Ni基超合金Alloy718,銅ベリリウム合金Cu-Be 25,および鉄基超合金SUH660の疲労限度特性について検討した.3種の合金の溶体化処理材および溶体化処理後に時効処理を施した析出強化材を用いて,両振りの疲労試験を室温大気中にて実施した. Ni基超合金Alloy718の析出強化材については,溶体化処理温度によって結晶粒サイズが大きく異なり,疲労限度は結晶粒径に強く依存する傾向があった.結晶粒サイズの影響については,引張強度特性には認められず,疲労強度特性を評価するうえで極めて重要なパラメータであることが明らかになった.また,疲労破壊起点近傍には,結晶粒サイズに対応したファセットが観察され,文献で報告されている研究結果と一致するデータが得られた.Ni基超合金Alloy718の溶体化処理材の疲労限度特性については,結晶粒が微細な組織の場合についてのみ検討した.析出強化材と比較して,引張強度が低いにもかかわらず,疲労限度の値は析出強化材の疲労限度とほぼ同等であった. 銅ベリリウム合金Cu-Be 25については,溶体化処理材の疲労試験を実施した.基礎データとして取得した溶体化処理材の引張強度は,析出強化材と比較し,著しく低い値であった.一方,疲労限度は,析出強化材と比較して,ほぼ同等かむしろ高くなる傾向があった. 鉄基超合金SUH660については,実験中であり,疲労限度の取得には至っていない. 本研究のもう一つの目的は,析出強化材の疲労限度に及ぼす水素の影響を明らかにすることである.一部の疲労試験片に対し,高圧水素ガス曝露を施し,疲労試験に着手している.また,疲労破壊メカニズムを考察するため,透過型電子顕微鏡を用いた組織観察を行った.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
析出強化材と溶体化処理材の引張強度には大きな差が生じるにもかかわらず,疲労限度がほぼ同等であるという実験結果を得た.これは,析出強化機構が疲労強度の向上にほとんど寄与しないことを示唆する重要な知見である.これまで,析出強化材として設計された材料について,時効処理を施さない状態の疲労特性を調査した例はほとんど存在せず,今回取得した実験データは,析出強化材の疲労特性を議論するための有益な知見といえる.また,透過型電子顕微鏡を用いて初期組織の観察を行い,整合析出物が母相中に分散していることを確認した. 析出強化材の疲労限度に及ぼす水素の影響を明らかにするため,一部の疲労試験片に対する高圧水素ガス曝露を完了させた.水素チャージ材の場合,未チャージ材よりも長寿命域で破断する傾向があり,疲労限度の決定に対し,当初の予定よりも時間を要している.
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今後の研究の推進方策 |
析出強化材の疲労限度近傍では,ファセットと呼ばれる平坦な面が破壊起点となっていた.ファセット形成の要因として,析出物によって活動できるすべり面の数が限定され,高いひずみの集中が発現することが考えられる.しかし,活動すべり系の数が極めて少ない疲労限度近傍では,ファセットの特定や観察が困難である. 本研究では,ファセットの観察を容易にするため,過大荷重負荷等により人工的な結晶欠陥を導入し,同様の疲労試験を実施する.疲労試験終了後,試験片の断面観察を行い,ファセットが形成されるプロセスを考察する. 析出強化材の疲労限度に及ぼす水素の影響を明らかにするため,水素チャージ材を用いた疲労試験を実施する.疲労限度を決定するパラメータを定量的に評価するため,補助的な実験および解析も実施する.
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