研究課題/領域番号 |
17K14559
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研究機関 | 佐賀大学 |
研究代表者 |
只野 裕一 佐賀大学, 理工学部, 准教授 (00346818)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 結晶塑性 / メッシュフリー法 / 材料モデリング / 多結晶金属 |
研究実績の概要 |
本研究課題は,メッシュフリー法に用いられる数値解析技術を応用することで,高精度と低計算コストを両立した新たなメゾスケール材料モデルを提案することを目的としたものである.メッシュフリー法に用いられる高精度数値積分法で使用されるボロノイ多角形が,金属多結晶体の幾何形状モデルとしても利用できることに着目し,新たな多結晶塑性モデルの枠組みと解析手法を構築することで,解析精度を低下させることなく,従来手法よりも大幅な計算コスト低減を実現できるメゾスケール材料モデルを開発することを目指している. 平成30年度は,平成29年度に得られた理論的枠組みにおいて,提案手法の解析精度や計算コストに関する検討を中心に研究を推進した.平成29年度は,ボロノイ分割を用いた節点積分法(SCNI)の適用可能性と精度についての検証を進め,理論の基本的な枠組みを構築した.SCNIの使用の有無に関わらず,メッシュフリー法による結晶塑性解析の報告例は極めて少ない.そこで,構築したメッシュフリー法に基づく結晶塑性モデルを用いて,複数のベンチマーク解析を実施し,提案手法の解析精度について定量的な検証を行った.その結果,SCNIを用いることで,従来手法と比較して解析精度,計算コストの両面で優位性があることを示した.つぎに,結晶粒形状・大きさが解析結果に及ぼす影響の調査に着手した.提案手法に特徴の一つが,ボロノイ分割による多結晶の形状表現であり,この点は他の手法にない独自のアイデアであるため,その優位性の検証を開始した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成29年度に,本研究の遂行に必要となる解析モデルの整備と,解析モデルの構築,および基礎的な検証解析をほぼ完了できていたため,平成30年度は提案手法の有用性の検証と,より高精度な材料モデルへの拡張を中心に研究を推進した.具体的には,まず本研究課題の特徴であるボロノイ分割を用いた節点積分法(SCNI)について,提案モデルへ適用した際の解析精度および計算コストの両面から,その有用性を検証した.SCNIを用いることで,従来手法と比較して解析精度,計算コストの両面で優位性があることを明らかにした.つぎに,結晶粒形状・大きさが解析結果に及ぼす影響の調査に着手した.提案手法に特徴の一つが,ボロノイ分割による多結晶の形状表現であり,この点は他の手法にない独自のアイデアであるため,その優位性の検証を開始し,現在継続して実施中である.以上で得られた成果について,4件の講演発表を行い(うち2件は国際会議),1編の査読付き学術論文が採択・掲載された. 研究開発環境について,平成30年度は計算コストが比較的低い解析が中心であったことから,既往の設備で対応することができた.このため,当初導入予定であった高性能ワークステーションは,計算コストが増大する平成31年度に最新のモデルを導入することとした. 最終年度となる平成31年度は,提案モデルの拡張と研究課題の総括を行う計画であるが,このための基盤となる解析技術の開発と検証はおおむね当初の予定通り進められたものと考えられ,平成31年度の研究計画に支障の無い進捗状況である.以上より,本研究課題は現在までおおむね順調に進展していると判断した.
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今後の研究の推進方策 |
平成29年度,30年度の研究の進捗状況は当初計画通りに進展していることから,最終年度となる平成31年度は予定通り,申請者が過去に構築した結晶格子回転や変形双晶のモデルを,平成30年度までに構築した解析手法に導入し,モデルの精緻化を図るとともに提案手法の有用性を検証する.さらに実用的な問題への応用として,板材の成形限界予測解析への適用を試みる予定である.また,平成30年度に着手した結晶粒形状・大きさが解析結果に及ぼす影響の調査についても,より定量的な検討を進める予定である.提案モデルの特色として,低コストながら各結晶粒の形状や大きさの分布を表現できる点が挙げられるため,結晶粒の形状や大きさを変化させた場合についての数値解析を実施し,その影響を調査する.加えて,研究協力者であるJiun-Shyan Chen教授の研究グループを訪問し,集中的な情報交換と研究課題に関する討論も実施することも計画している. 以上を通じて,提案モデルの解析精度と計算コストを定量的に評価するとともに,モデルの妥当性を検証し,また既存の手法との比較を通じて提案手法の解析精度および計算コストの優位性を調査する.これにより,本研究課題の目的である高精度・低コストなメゾスケール材料モデルの有用性を定量的に評価し,本研究課題を総括する.また,平成31年度中に,得られたモデルについて1編以上の英文論文としてまとめ,国際誌へ投稿する予定である.
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度までに実施した数値解析は,既存の計算環境で実行可能であったため,平成30年度購入予定であったワークステーションについて,計算コストが増大する平成31年度に繰り越して導入することとした.このため,この差額分が次年度使用額として生じており,平成31年度前半に導入するワークステーション購入費用として充当する予定である.
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