研究課題/領域番号 |
17K14587
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
亀谷 幸憲 東京大学, 生産技術研究所, 特任研究員 (60759926)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 形状最適化 / 乱流 / 伝熱促進 / 抵抗低減 |
研究実績の概要 |
本研究では,熱交換器の性能向上を目指し,乱流場における伝熱促進及び圧力損失抑制のための伝熱面形状最適化アルゴリズムの構築と実証を目的とする.平成29年度は①乱流場での伝熱面形状最適化アルゴリズムの構築及び②数値解析によるアルゴリズムの検証を行った.これらの結果を国際会議及び国内会議で発信した.以下詳細を示す. 【乱流場での伝熱面形状最適化アルゴリズムの構築】申請者が構築した層流における定常随伴解析に基づく形状最適化のアルゴリズムを乱流場に拡張した.乱流場での形状最適化に対し,非定常随伴解析は乱流の強い非線形性から理論破綻が生じて適用できない.そこで時間平均されたナビエ・ストークス方程式(RANS)及びエネルギー方程式を用いた定常随伴解析による形状最適化アルゴリズムを構築した.本アルゴリズムではブシネスク近似から渦粘性・渦拡散係数とレイノルズ応力・乱流熱流束の代数的関係式を導き,乱流場を対象とする随伴解析を定常問題に帰着させる. 【数値解析による形状最適化アルゴリズムの検証】上記のアルゴリズムを基に数値解析コードを開発し,形状最適化アルゴリズムの検証を行った.流体部及び固体部の識別にレベルセット関数を用いた.まず,直接数値シミュレーションを行い,随伴方程式に用いる乱流統計量を計算する[順方向解析].続いて,順解析から得られた統計量を基に渦粘性係数を計算し,定常随伴方程式の収束計算を行う[随伴解析].随伴解析結果からレベルセット関数を更新する[形状更新]し,これらの操作をコスト関数の変化が収束するまで繰り返す.本解析コードを,平行平板間を一様に発熱する流体が圧力勾配一定で流れる系に配置された正弦波状フィンに適用した.流れは乱流とし,空気流を想定した.目的関数をアナロジファクタ(熱伝達率の圧力損失に対する比)の最大化とし,結果から本アルゴリズムが有効であることが示された.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
年間計画通り,乱流場での伝熱面形状最適化アルゴリズムを構築し,数値解析を用いた検証によりアルゴリズムの有効性を確認した.また,これらの成果を国際会議及び国内会議で発信した.しかし,計画に含まれていた公刊論文による発信に関しては現在投稿準備中である.
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今後の研究の推進方策 |
平成30年度の研究実施計画に則り,①構築した随伴解析に基づく乱流場での伝熱面形状最適化アルゴリズムの実証実験,②対流熱伝達・固体内熱伝導の共役熱伝達場への形状最適化アルゴリズムの拡張,及び③性能向上のメカニズム解明と最適形状の特徴量抽出を行う.また,結果を公刊論文及び学会を通じて発信する.詳細を以下に示す. 【実証実験】数値シミュレーションから得られた最適形状を,樹脂3Dプリンタを用いて供試体化する.作成した熱交換器モデルの供試体を風洞に設置し,空気流を用いた圧力損失及び熱伝達率の評価を行う.圧力損失は供試体入口及び出口の圧力差をマノメータで計測する.また,熱伝達率はヒーター及び熱電対を用い,入口でのステップ状加熱に対する出口での温度応答から熱伝達率を求める「非定常法」により計測する.実験より得られた結果を直接数値シミュレーションの結果と比較・考察し,構築した形状最適化アルゴリズムの実証とする. 【共役熱伝達場へのアルゴリズム拡張】平成29年度に構築した形状最適化アルゴリズムは伝熱面に等温条件を課しており,これは熱伝導率が無限に高い材料を仮定していること等価である.しかし実際にはフィン材料は様々であり,フィンの熱伝導率は有限のためフィン内部に温度分布が生じる.従って,最適形状は熱伝導率の相違によって異なると考えられる.そこで熱伝導率を含む物性値を考慮する,形状最適化アルゴリズムの拡張を行う.また,本アルゴリズムについて,数値解析を用いた検証及び実験による実証を実施する. 【メカニズム解明と特徴量抽出】本アルゴリズムで得られた最適形状の性能向上メカニズムを感度分布及び流れ場の瞬時量・統計量から解明する.また,複雑化する傾向にある最適形状の特徴量を抽出し,工学利用のための性能向上の一般的知見を得る.
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次年度使用額が生じた理由 |
予定していた国際学会に査読不通過により参加しなかったため.今後,出張費及び消耗品に充てる.
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