研究課題/領域番号 |
17K14592
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研究機関 | 関西大学 |
研究代表者 |
大友 涼子 関西大学, システム理工学部, 助教 (00726862)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 繊維層 / 移動特性 / Stokes flow / PRPフィルター |
研究実績の概要 |
本研究では,繊維層中を流れるマイクロ粒子の挙動を詳細にシミュレートすることで,複雑な繊維層の構造が粒子の移動特性に与える影響を明らかにすることを目的とする.特に多血小板血漿(PRP)作製のためのフィルターによる濾過プロセスを念頭に置き,それらを通して,粒子の繊維への付着および移動現象の解明を目指す.平成29年度は「繊維-細胞間の相互作用の検討」を主として行った. まずは繊維-細胞間に作用するvan der Waals力(VDW力)を検討した.繊維を円柱形状で近似し,円柱と球形粒子の間に作用するVDW力を導出し,任意の位置にランダムに配置された円柱群と球形粒子間のVDW力を算出する計算コードを完成させた.次に,静電力について,Javadpour and Jeje (2012)により測定されたPRPフィルターの1本の繊維と血小板および白血球の間に作用する静電力をもとに,円柱-球形粒子間に作用する静電力の計算をコードに組み込んだ.細胞の繊維への付着を考える場合には,これらに加えて生物学的反応により発生する力も考慮する必要があると考えられるため,現在検討を行っている. 繊維中の細胞挙動のシミュレーションには,研究代表者らがこれまでに用いてきた数値解析手法であるStokesian dynamics法を用いる.繊維層を球形粒子の集合体でモデル化し,内部の流動場を解析する計算コードに加え,本研究では,繊維層内部の流体で満たされた空隙部分を細胞粒子が移動する現象を再現するためにコードの改良を行い,その妥当性を確認した.さらに,各時刻における粒子と繊維の位置関係に応じたVDW力および静電力を考慮する計算コードを完成させた.現状では繊維-粒子間の吸着は再現できていないが,任意の形状・配置を有する繊維層内部における細胞粒子の運動は解析可能となった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は,「繊維-細胞間の相互作用の検討」が進捗目標であった.繊維および細胞をそれぞれ円柱および球形粒子で近似し,それらの間の相互作用として,VDW力,静電力,生物学的反応によって発生する力を対象として検討した.このうち,VDW力および静電力については,任意の位置関係における円柱-球形粒子間の相互作用を導出し,計算コードを作成することができた.生物学的反応によって発生する力については,さらに詳細な調査が必要な段階であり,引き続き検討事項として残すところとなった.また,本年度の後半では,次年度に実施予定であった「細胞が分散した溶液の繊維層中の流動解析」のうち,Stokesian dynamics法の適用可能性の検討,およびVDW力と静電力の計算コードへの組み込みを行うことができた.
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今後の研究の推進方策 |
VDW力(引力)が支配的となるのは,細胞粒子が繊維にきわめて近づいた場合であり,それよりも少し離れた位置では静電力(斥力)の方が大きく作用する.このため,現段階では細胞の付着を再現することができておらず,VDW力以外の引力の影響を考慮する必要がある.その一つとして生物学的反応により発生する力が挙げられるが,それらの検討について今年度には十分に達成できなかった.次年度に,付着のメカニズムについて文献調査を中心的に実施し,どのような力を考慮すべきか引き続き検討していく.検討の結果として得られた相互作用を,現在使用している計算コードに組み込み,細胞粒子挙動の妥当性を確認する.繊維-細胞粒子間の相互作用が適切に再現されれば,次年度に当初から予定していた「繊維層への細胞粒子の付着判定」の検討を行い,最終的にプログラムの完成を目指す.検証実験が必要な場合には随時実験も実施する. 進捗状況によっては,平成31年度実施予定の「細胞粒子形状の影響」,「繊維形状が細胞粒子の移動特性に与える影響」にも取り組む.
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次年度使用額が生じた理由 |
消耗品として,数値計算のためのコンパイラの購入を考えていたが,現段階では負荷の大きな計算は行っていないため,現有のものを使用して実施することができた.次年度以降には,より大規模な計算を行う可能性があるため,次年度使用額を新たなコンパイラ購入のための予算の一部として計上する. 平成30年度には,より大規模な計算を行う可能性があるため,コンパイラおよびHDD等,効率のよい計算とデータ保管のための消耗品の購入を計上している.また必要に応じて検証実験を行うため,それに必要な器具などの消耗品の購入も計上している.研究成果を国内外で発信するため,旅費を計上している.
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