これまでの乱流研究は発達乱流が主な対象であったが、近年、十分には発達していない乱流の工学的重要性が高まっている。 研究代表者は、そうした乱流の一種である「弱い乱流」について、非平衡統計力学の立場から理論的に研究してきた。 液晶電気対流系で見られる弱い乱流に関する実験結果の解析と,数理モデルの数値計算により得られる結果の解析とを組み合わせることで,弱い乱流に駆動される拡散現象の研究を進めてきた.2017年度と2018年度に行った研究の総括として,2019年度は、弱い乱流の一つの数理モデルであるNikolaevskii乱流に関して,その乱流に駆動される粒子の拡散現象について研究した。 1次元系の乱流の情報から,対流状態を仮定することで2次元系の速度場をモデル化した.さらに,その速度場で運動する粒子運動を分子動力学シミュレーションにより再現した.これにより,Nikolaevskii乱流の情報を時々刻々反映させた粒子位置の時間発展を考えることができた。こうして得られた粒子運動のシミュレーション結果を解析したところ、中間時間領域で速い拡散現象が見出された。この現象を説明するため,複スケールブラウン運動と呼ばれる理論モデルを考案した.そのモデルを解析することにより,Nikolaevskii乱流中にはゆっくりと拡散する非局所構造が存在し,Nikolaevskii乱流中に階層構造が存在することを定量的に示した. 数理モデルで示された特性が実験で得られた弱い乱流の特性を示すのかについては議論の余地があるものの,そういった研究の可能性を示す結果が本研究により得られた.
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