研究課題/領域番号 |
17K14598
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研究機関 | 国立研究開発法人海洋研究開発機構 |
研究代表者 |
松田 景吾 国立研究開発法人海洋研究開発機構, 地球情報基盤センター, 研究員 (50633880)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 雲乱流 / レーダ反射強度 / 乱流クラスタリング |
研究実績の概要 |
本研究では,雲粒子の乱流クラスタリングによって気象レーダ観測における反射強度が増加する効果を,乱流の直接数値シミュレーション(Direct Numerical Simulation, DNS)により定量的に明らかにし,対流雲中のような高レイノルズ数乱流場に適用可能な乱流クラスタリングモデルを構築することを目的としている.本研究の乱流クラスタリングモデルとは,乱流中における粒子の数密度変動のスペクトル密度関数モデルである.今年度は,前年度に実施した大規模3次元DNSデータに基づき,重力沈降する液滴(球形慣性粒子)について,複数粒径の雲粒が混在している場合の乱流クラスタリングモデルの構築に取り組んだ.具体的には,大規模DNSにより得られた,一様等方性乱流中を運動するラグランジアン粒子の数密度変動スペクトルについて,2粒径間のクロススペクトルのコヒーレンスを用いてモデル化した.さらに,2粒径間での重力沈降速度の違いによるクラスタリング強度の低下の影響をモデルに組み込むことに成功した.さらに,構築したモデルを高解像度雲シミュレーションデータに適用し,幅広い粒径分布をもつ積雲でのレーダ反射強度に及ぼす乱流クラスタリングの影響を定量的に示すに至った.本成果についての査読論文が,気象分野の主要国際誌Atmospheric Chemistry and Physicsに掲載された.また,重力沈降速度が大きい場合の非等方乱流クラスタリングの形成機構解明への取り組みを加速するため,Aix-Marseille大学(フランス)との共同研究を開始した.また,氷粒子(非球形粒子)の非等方乱流クラスタリングの特性と形成機構の解析に関し,DNSコードに実装する非球形粒子の運動の計算手法について主要論文の主著者とのディスカッションを行うなど,解析の準備に着手した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度には,幅広い粒径分布をもつ実際の雲でのレーダ反射強度を推定する際に必要不可欠となる,複数粒径の雲粒が混在している場合の乱流クラスタリングモデルについて,異なる粒径間での重力沈降速度差の影響を反映したモデルを構築し,査読論文1報の掲載および国際会議発表2件を行うに至った.また,重力沈降する球形粒子の非等方乱流クラスタリングの形成機構の解明のため,粒子数密度のマルチスケール特性の高速解析手法の導入のため,Aix-Marseille大学(フランス)との共同研究を開始した.特に,重力沈降する粒子の乱流クラスタリングに特有のカーテン状クラスタの形成において重要となる,大スケール渦に対する粒子数密度の応答について重要な進展が得られた.また,氷粒子(非球形粒子)の非等方乱流クラスタリングの特性と形成機構の解析の準備にも着手した.以上のように,順調に研究が進展し,論文発表等の研究成果が得られていることから,進捗状況区分を「(2)おおむね順調に進展している。」とした.
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今後の研究の推進方策 |
重力沈降する球形粒子の非等方乱流クラスタリングの形成機構の解明について,マルチスケールでの空間データ解析に優れるウェーブレット法等を導入し,クラスタリング形成に寄与する特徴的スケールの同定を行う.特に,重力沈降する慣性粒子に特有のカーテン状クラスタの形成において重要な役割を果たす,大スケール渦に対する粒子数密度の応答メカニズムを明らかにする.また,氷粒子(非球形粒子)の非等方乱流クラスタリングの特性と形成機構の解析を行う.非球形粒子については,雲乱流のような高レイノルズ数乱流中における乱流クラスタリングに関する知見が極めて少ない.また,非球形粒子では,粒子方位によって重力沈降速度が変わるため,ストークス数が小さくてもカーテン状クラスタが形成される可能性がある一方,不規則な運動によりクラスタリングが弱まる可能性がある.そこで,DNSコードに非球形粒子の運動の計算手法を実装し,粒子方位を考慮した乱流クラスタリングの解析を行う.
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次年度使用額が生じた理由 |
Aix-Marseille大学との共同研究のため海外長期滞在(フランス,2018年9月-2019年7月)することになり,その費用は所属機関の経費で負担することができた.そこで,情報収集のための日本からの長距離渡航1回を取りやめ,ヨーロッパ圏内での複数回の出張(情報収集および研究成果発表)を当該年度内および次年度に実施することに変更した.次年度には,当該変更に伴うヨーロッパ圏内出張(研究成果発表)を1回実施する予定である.
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